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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)2132号 判決

広島県芦品郡新市町大字戸手二三八二番地の六

原告

株式会社ミツボシコーポレーション

右代表者代表取締役

道前伸洋

右訴訟代理人弁護士

品川澄雄

滝澤功治

大阪市中央区船越町一丁目四番七号

被告

島田商事株式会社

右代表者代表取締役

島田行雄

福井県坂井郡金津町伊井第六〇号一番地

被告

新道繊維工業株式会社

右代表者代表取締役

新道忠志

大阪府豊中市名神口一丁目一三番一五号

被告

株式会社サンロール

右代表者代表取締役

中西明

被告ら訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

森島徹

豊島秀郎

辻川正人

東風龍明

右輔佐人弁理士

小谷悦司

亀井弘勝

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告らは別紙目録(一)記載の方法を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を製造し販売してはならない。

二  被告らは別紙目録(二)記載の方法を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を製造し販売してはならない。

三  被告島田商事株式会社及び被告株式会社サンロールはその所有する、前二項記載の方法を用いて製造された各ベルト芯巻取製品を廃棄せよ。

四  被告新道繊維工業株式会社は別紙目録(一)及び(二)各前段記載の方法を用いて製造したベルト芯中間製品を廃棄せよ。

五  被告らは、連帯して、原告に対し金二〇〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告並びに被告島田商事株式会社(以下「被告島田商事」という)及び被告新道繊維工業株式会社(以下「被告新道繊維工業」という)はいずれも芯地その他の縫製資材の販売等を業とする会社であり、被告株式会社サンロール(以下「被告サンロール」という)は服飾付属品の売買等を業とする会社である(争いがない)。

二  原告は次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲1項記載の発明を「本件発明(一)」、同5項記載の発明を「本件発明(二)」、両者をまとめて「本件発明」という)を有している(争いがない)。

登録番号 特許第一一一一〇二七号

登録年月日 昭和五七年八月三一日

発明の名称 潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法

出願公告日 昭和五五年七月一八日(特公昭五五-二七一六三)

出願年月日 昭和五二年二月二五日(特願昭五二-二〇五三七)

特許請求の範囲

「1 巾方向に一側より順次少なくとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有する部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出部引出速度で移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し、爾後冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

《2項ないし4項は別添特許公報(以下「公報」という)の該当欄に記載のとおり。》

5 巾方向に一側より順次、少なくとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有せる部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し、出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出速度を保持して移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して、該接着剤粉末を溶融した後、外側面に接着剤を付与してなる支持布をその非接着剤付与面を対合面として前記帯状布と重合し、加圧冷却により両布を接合すると共に、支持布の外側接着剤面を圧着し爾後、冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。」

三  本件特許請求の範囲記載の発明は、「潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法」の発明であって、特許請求の範囲2項ないし4項記載の発明は1項記載の発明(本件発明(一))の実施態様項であり、同5項記載の発明(本件発明(二))は、1項記載の発明(本件発明(一))の構成に欠くことができない事項を、その構成に欠くことができない事項の主要部としている発明である(争いがない)。

四  本件発明の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

1  本件発明(一)

〈1〉 巾方向に一側より順次少なくとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有する部分とが分布された連続帯状布Aを原材料とすること。

〈2〉 これを糊付、乾燥すること。

〈3〉 その後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施すこと。

〈4〉 次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、

(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、

(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、

(ニ) 加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し、

(ホ) 爾後冷却過程を経て巻取ること。

〈5〉 以上を特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

2  本件発明(二)

〈1〉 本件発明(一)の構成要件〈1〉に同じ。

〈2〉 本件発明(一)の構成要件〈2〉に同じ。

〈3〉 本件発明(一)の構成要件〈3〉に同じ。

〈4〉 次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、

(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、

(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、

(ニ) 加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し、

(ホ) 外側面に接着剤を付与してなる支持布をその非接着剤付与面を対合面として前記帯状布と重合し、

(ヘ) 加圧冷却により両布を接合すると共に、支持布の外側接着剤面を圧着し

(ト) 爾後、冷却過程を経て巻取ること。

〈5〉 以上を特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法

五  被告らの行為

業として、被告新道繊維工業は別紙目録(一)及び(二)各前段記載の「巻取ベルト芯中間製品」を製造し、これを被告サンロールに送り、同被告が同各目録後段記載の「ベルト芯巻取製品」に仕上げ、これを被告島田商事に納入し、同被告がこれを販売している。同各目録後段記載の「ベルト芯巻取製品」は本件特許請求の範囲にいう「潜在歪曲性を有するベルト芯布」に該当する。(争いがない)。

被告らの右各製品ないし中間製品の製造方法について、原告は、別紙目録(一)及び(二)記載のとおりである旨主張するのに対し、被告らは別紙被告ら主張目録(一)及び(二)記載のとおりである旨主張するが、争いのある部分は、別紙目録(一)及び(二)並びに被告ら主張目録(一)及び(二)中、傍線を付した部分のみであり、他の部分については争いがない。

六  原告の請求の概要

被告らが別紙目録(一)記載の方法(以下「イ号方法」という)を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を、別紙目録(二)記載の方法(以下「ロ号方法」という)を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を各製造販売していること、及びイ号方法が本件発明(一)の技術的範囲に属し、ロ号方法が本件発明(二)の技術的範囲に属することを理由に、被告らに対し、その製造販売の停止等と昭和六〇年六月から昭和六三年六月までの間に被告らの右製造販売により原告に生じた損害二一六〇万円の内金二〇〇〇万円の賠償を請求。

七  争点

1(加熱炉における長手方向での熱収縮の有無)

被告らは、原告主張のイ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造しているか。即ち、被告ら実施のベルト芯巻取製品の製造方法(以下「被告ら製造方法」という)は、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くしているか。

2(イ号・ロ号方法は本件発明の構成要件〈4〉を具備するか)

イ号・ロ号方法の、「加熱炉を通して得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で……ロールコーターに導き、……溶融状のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗付し、その後、……ガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を満遍なく浸透させ」ることが、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融し」に該当するか。これと均等といえるか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(加熱炉における長手方向での熱収縮の有無)

被告らは、原告主張のイ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造しているか。即ち、被告ら製造方法は、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くしているか。

【原告の主張】

1 被告らの実施するイ号・ロ号方法においては、帯状布は加熱炉の中を通過しつつ加熱されることによって最も熱収縮残留率の小さい糸の熱収縮残留率の範囲内の熱収縮を生じ、加熱炉の出口部の引出速度はその限度で入口部の供給速度よりも遅く(小さく)なる。被告らがこの方法を実施していることは次の諸点からも明らかである。

2 被告らが本訴対象物件の連続細巾帯状布(NC-一三〇)に用いているという「A糸」(三菱レイヨン製ソルーナA一一〇、一五〇デニール/四八フィラメント糸-被告ら技術説明書一頁参照。同説明書添付資料2の写真における黄色糸)、「B糸」(東レ製九一五、一五〇デニール/三〇フィラメント糸-同黒色糸)及び「C糸」(三菱レイヨン製ソルーナA一一〇、七五デニール/二四フィラメント糸-同白色糸)は、いずれも、同技術説明書においても残留収縮性を残していると記載されている。すなわち、同技術説明書によれば、「A糸」の熱収縮率はO・五%、「B糸」のそれは八・三%、「C糸」のそれは三・九%である。被告らの右連続細巾帯状布(NC-一三〇)には、右三糸の他に「D糸」(同水色糸)も用いられている。しかし、「D糸」は、同技術説明書添付資料2に示される如く、横振り糸として用いられており、本件における熱収縮の問題は縦方向の熱収縮であるから、横振り糸「D糸」の加熱による熱収縮に検討を加える必要はない。また、被告らのもう一つの連続細巾帯状布(NC-一五〇)には、右NC-一三〇編成糸の他に、更に「E糸」(東レ製B二〇N、一五〇デニール/二フィラメント、四八フィラメント双糸使い-同青色糸)が用いられている。しかし、この「E糸」も横振り糸であるから、「D糸」と同様その熱収縮率に考慮を払う必要はない。以上のとおり、被告らが加熱炉に送り込む右二種の連続細巾帯状布は、いずれも加熱によって熱収縮を生じ得る潜在的収縮性を保有している。

平成二年一一月三〇日当庁において開催された技術説明会において、被告らは、「加熱炉」の加熱温度は一四〇~一五〇℃であると述べた。甲第六号証(試験成績書)は、甲第七号証(陳述書)記載のとおり、被告島田商事の販売にかかる帯状布NC-一三〇を資料No.1とし、帯状布NC-一五〇を資料No.2として、広島県立東部工業技術センターに依頼した試験の結果を記載した書面であるが、その試験結果によれば、両資料は共に一二〇℃、一四〇℃、一六〇℃の三種の乾熱プレス試験において熱収縮を起こしている。この両資料は、添付の帯状布にみられる如く不織布の貼り合わされたロ号方法によって得られた製品たるベルト芯巻取製品の切断片であって、加熱炉を出て巻取られた巻取ベルト芯中間製品ではないが、このように最終製品でも一二〇℃、一四〇℃の乾熱によって長手方向に熱収縮を生じている以上、帯状布が加熱炉に供給され、一四〇℃ないし一五〇℃の熱風加熱(乾熱)を受けた時熱収縮を起こさないことはあり得ない。

他方、被告ら使用の加熱炉の構造は次のとおりである。別紙添付の図面1記載のとおり、加熱炉の入口部に設けられている送り込みロールは乾燥ロールのモーターによって回転する。乾燥ロールのモーターには手動変速機が設けられているが、この手動変速機は装置の運転中変速されることはあり得ない。乾燥ロールや絞りロールは定速で運転しなければならないからである。したがって、乾燥ロールや絞りロールの回転速度は一定であり、送り込みロールの回転速度も一定である。すなわち、送り込みロールは定速で帯状布を加熱炉に送り込む。

加熱炉内には五段階のロールブロックが設けられているが、その駆動機構と駆動状態を明らかにするには、一ブロックについて検討すれば足りる。そこで、最も出口部に近い最終段階のロールブロックを見るに、このロールブロックには、上部に四個の搬送ロールが設けられ、下部に三個の搬送ロールと一個の回転制御ロールが設けられている。後から二段階目のロールブロックの下部に設けられた回転制御ロールを通過した帯状布は、次に上部の搬送ロールを経て下部の搬送ロールを通り、さらに上部の搬送ロールを経るという繰り返しを経て下部の回転制御ロールに達し、これを経て加熱炉の上部に設けられた出口部を出て巻取側ロールに巻取られる。

回転制御ロールには、別紙添付図面1の「回転制御ロールの部分図」に示されているように、その支軸の一端に支持棒を設けたオモリが取付けられ、また帯状布は支軸に二本のアームによって結合された短いロールに通されている。支軸の他端には歯車とこれに連動するロータリー可変抵抗器が設けられ、可変抵抗器はモーターに接続している。そして、

(1) オモリと帯状布の通された短いロールとは、それらの重量によって下方に下降しようとする働きをする。一方、短いロールに通されている帯状布は、その張力によって短いロール、したがってオモリを上方に引き上げようとする。オモリと短いロールとが一定位置に静止しているのはオモリ及び短いロールの重量と、帯状布の張力とが釣り合っているからである。イ号・ロ号方法による製造を開始するに当たっては、帯状布はオモリ及び短いロールと釣り合うようにロールブロックに掛け回される。

(2) ロールブロックが駆動して熱風(一四〇~一五〇℃)が加熱炉内に送り込まれると、帯状布は前述したとおり熱収縮を起こす。これは帯状布の張力が大きくなることを意味する。オモリ及び短いロールの重量が一定であるにもかかわらず、帯状布に張力が加わるため、オモリと帯状布を通した短いロールとは上方に引上げられる。

(3) オモリと短いロールとが上方に引上げられると、それに伴って回転制御ロールの支軸は回転し、その回転は歯車を経て、ロータリー可変抵抗器に伝わり、モーターの回転速度を低速に変える。

(4) 加熱炉の出口部外側に設けられた巻取側ロールは右のモーターで回転する。このモーターが低速に変るのであるから、巻取側ロールの回転が遅くなることは多言を要しない。

(5) 別紙目録(一)及び(二)には、加熱炉内で帯状布は「フリーなテンション状態」である旨記載されている。これは、被告らの主張に従って挿入した語句であるが、「フリーなテンション状態」とは、加熱炉内において帯状布が各ロールを通過するに当たって、何処にも弛みを持たず、また何処にも特別の張力の加わらない状態を指している。それは、つまり、回転制御ロールのオモリ及び短いロールの合計重量と帯状布の張力とが釣り合っていることを意味している。

(6) 以上によって、被告らの実施するイ号・ロ号方法においては、加熱炉の出口部の引出速度は入口部の供給速度よりも遅い(小さい)ことが明らかである。

3 被告新道繊維工業で使用している加熱装置は株式会社谷内田製作所製の細巾編物用防縮機であり、被告らはてれを改良型と主張しているが加熱炉には何ら改良の跡が見られない。

本件処理方法のように熱収縮率の大きい糸とそれの小さい糸を用いて一側より順次熱収縮率の異なる帯状布に熱収縮処理を施す場合には、熱収縮率の大きい糸の熱収縮力に対応して回転制御ロールを下に引っ張るようにオモリで調整する。帯状布全体としては熱収縮率の小さい糸の熱収縮力が加わるので帯状布全体の熱収縮力は回転制御ロールの下に引っ張っている力より大となり、回転制御ロールは上昇して可変抵抗器を経て変速モーターを遅らせる。熱収縮率の小さい糸が完全に熱収縮すると熱収縮力は零となる。

熱収縮率の大きい糸の収縮力とオモリを下に引っ張っる力が均衡し、熱収縮率の大きい糸は熱収縮率の小さい糸の熱収縮以上は熱収縮しないで、熱収縮率の大きい糸の熱収縮率が残留し、潜在湾曲性を有した帯状布が真っ直ぐな状態で作成されるのである。

しかしながら、帯状布は時間と共に熱収縮を起こすものであるので、被告新道繊維工業使用の加熱炉では、五個の回転制御ロールを設けてあり、各回転制御ロールはそれぞれの箇所で熱収縮に対応してモーターの回転を遅らせる。この場合、オモリの調整が難しく、なお、搬送ロールの間は長く、巻取ロールの段階で多少湾曲を生じ、真っ直ぐに修正しなくてはならないので巻取ロールの約半周にベルトを密着させて動かせ、その間に帯状布を挟んで真っ直ぐに修正している。同被告使用の防縮機(加熱炉)には何ら改良が施されていないけれども、巻取ロールはこのように改良されている。帯状布を伸張して仕上げるのであれば、このような改良の必要は全くない。この巻取ロール改良の事実からみても、被告らが帯状布に熱収縮処理を施していることは明らかである。

4 被告島田商事は、原告代理人が同被告宛に出した昭和五八年九月三日付警告書に対する同月二六日付回答書(甲五)において、「当社の熱収縮工程は、ノンテンション下で徐々に温度を高めて、原料糸の収縮限界まで自由に収縮させる処に特徴を有し、入口部及び出口部のローラーはフリーの状態であって速度制御は行なっておりません。」と明言した。右回答によれば、加熱炉に帯状布を通過させる工程において、〈1〉帯状布は熱収縮を生じること、〈2〉加熱炉の入口部のローラー及び出口部のローラーは速度制御が施されていないのであるから、帯状布が加熱炉の中において熱収縮を生じる限度において出口部ローラーは入口部ローラーよりも遅い速度で回転していることは明白であった。しかも、同被告の右説明は、原告が同被告に対して何らかの誘導を加えたためにされたというものではなく、被告ら自身の製法を自発的に明らかにするためになされた説明なのである。そして、加熱炉をかかる用法で用いることは、加熱炉として用いられている「ヤチダの防縮機」の極めて正当な用法に他ならない。

そのうえ、被告らは、平成元年六月三〇日付準備書面(一)においても、「同被告(裁判所注・被告新道繊維工業)で行なっている熱収縮工程は、被告島田商事株式会社の昭和五拾八年九月二拾六日付回答書(甲第五号証)に於いて述べたとおり「ノンテンション下で徐々に温度を高めて、原料糸の収縮限界まで自由に収縮させる所に特徴を有し、入口部及び出口部のローラーはフリーの状態であって速度制御は行なっておらない。」(2枚目裏12行目~3枚目表3行目)ものであり、変形防止は熱収縮処理工程に入る前処理に工夫を凝らすことにより大部分達成しており、それでも熱収縮処理工程で若干扇形に変形するが、製品として支障のない程度である」と主張し、更に、平成元年九月一日付準備書面(二)においても、「同被告(裁判所注・被告新道繊維工業)の加熱装置にも入口部及び出口部を有するが、それぞれのローラーはフリーの状態であって、速度制御は行なっておらない。そして、ノンテンション下で加熱装置内の温度を徐々に高めて、原料糸の収縮限界まで自由に収縮させるものである。」と主張していた。このように被告らは昭和五八年九月二六日付回答書(甲五)以降平成元年九月一日付準備書面(二)に至るまで、自ら進んで、被告ら製造方法における加熱炉を経る工程は、熱収縮処理工程であり、その工程において帯状布は加熱によって熱収縮を生じると主張していたのである。原告が被告らのこの主張を援用していたことはいうまでもない。

右に指摘した被告らの主張は、被告ら実施の製法が本件発明の技術的範囲に属することを請求の原因とする本件訴訟においては、自己に不利益な事実の陳述であって、「自白」である。甲五回答書における陳述は裁判外の自白であるが、右準備書面(一)及び(二)における各陳述は正に裁判上の自白である。裁判上の自白が自白者によって自由に取消され、撤回されることの許されないことは明らかである。被告らが平成二年二月一四日付準備書面(四)において従来の右陳述を突如一転して、帯状布は加熱炉内において伸張して仕上げられるとの主張に変更したのは、被告らが従来通りの主張を続ける限り本件特許権侵害を免れ得ないと考えたからであって、準備書面(四)における主張は本件特許権に抵触しないとの結論を引出すための苦肉の策に他ならない。

したがって、本件訴訟においては、被告らの製法は加熱炉において帯状布に熱収縮処理を施しているということを前提に判断されなければならない。

【被告らの主張】

1 被告らは、原告主張のイ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造していない。すなわち、被告らの製造方法においては、加熱炉の出口部引出速度は入口部供給速度に比較して大ならしめて移送し、加熱炉内で帯状布をプリーなテンション状態で熱処理している。加熱炉内で帯状布は長手方向に伸ばされるように引っ張られた状態で移送されるため、熱収縮されることはない。

フリーなテンション状態とは、弛緩状態又は無緊張状態を意味するものではなく、基準となるテンションより小のテンションとなった場合(弛緩状態に近づいた場合)は、基準テンションになるようテンションを増大し、逆に大のテンションとなった場合(必要以上に緊張状態になった場合)はテンションを減少させて基準テンションになるよう調節している状態を意味する。つまり、基準テンションを維持するよう、一定範囲内で自由に可変する張力を加えている状態である。そして、右の基準テンションとは予め熱処理済みの糸を使った帯状布の網目を均一にし安定した帯状布にするための適切なテンションであり、なおかつ、熱収縮処理が施されていない原告主張のB糸が熱収縮しないようなテンションである。被告ら製造方法のうち、前段階の巻取芯中間製品を得るまでの工程の概略は次のとおりである。

(一) 糸の熱収縮処理工程

連続細巾帯状布の編成に必要な糸の八〇%以上の糸は、予め加熱による収縮処理が施され済みである。商品名NC-一三〇の連続細巾帯状布の編成に用いる糸はA、B、C、Dの三種類であり、商品名NC-一五〇の連続細巾帯状布の編成に用いる糸はA、B、C、D、Eの五種類である(検乙二〇、二一)。

(二) 編成工程

編成に必要な二〇%以下の未だ熱収縮処理されていない糸を、製品完成後に熱プレスで長手方向へ弧状に湾曲させるために適切な位置に右熱処理済みの糸の配列と区別して配列し、両糸によって編機で連続細巾帯状布を編成する。連続細巾帯状布には商品名NC-一三〇と商品名NC-一五〇の二種類がある。

(三) 供給工程

編成後の帯状布を回収して供給部から引上げロールによって引上げて次工程へ供給する(検乙二四~二六)。

(四) 糊付工程

糊付浸漬槽に帯状布を浸漬通過させて糊付を行なう(検乙二四~二六)。

(五) 乾燥工程

帯状布に浸漬した糊を絞りロールで絞った後、三個の乾燥ロールに帯状布を多数回巻き回し送給しながら乾燥させる(検乙二四~二七)。

(六) 仕上工程

乾燥工程を終えた帯状布を送り込みロールで仕上用加熱炉へと送り込む

(検乙二四、二八~三二)。

加熱炉は送風機からの風がヒーターで熱せられて吐出口を経てダクトから供給され、排気口へ出るようになっていて炉内は熱風雰囲気下におかれてあり、帯状布は搬送ロールと回転制御ロールによる五段階のロールブロックを経ながらブリーなテンション状態で通過しながら仕上が行なわれるもので、帯状布は未だ熱収縮処理のされていない二〇%以下の糸が熱収縮しないように入口速度より速い速度で搬出される。炉内の帯状布は編成工程で緩く編み上がったり、きつく編み上がったりしている網目をできるだけ均一化して安定よく整理するためのフリーなテンション状態を維持しながら長くゆっくりと炉内を通過して仕上処理が行なわれものであり、糸段階で未だ熱収縮処理が済まされていない二〇%以下の糸が炉内で熱収縮してしまわないように、トータル的には炉内の入口速度よりも速い速度で引っ張り気味に帯状布を搬出させている。

(七) 回収工程

加熱炉から出た帯状布は炉内搬出速度と対応したモーターによって回転制御された巻取側ロールと、エンドレスベルト間に通して回収部へと送給し、回収される(検乙二八、二九、三三)。

(八) 巻取工程

回収後の帯状布は芯材に巻取られて巻回状態の巻取ベルト中間製品となる。

2 被告ら製造方法を、その使用に供している装置(別紙添付図面1記載)に則して説明すると、次のとおりである。

(一) 加熱炉内への入口部供給速度〔Va〕

右速度は、乾燥ロールのモーターの回転速度によって決定される。右モーターの回転速度は機構上一定速度に保たれているため、帯状布に皺、厚みの変化がなく、また帯状布と乾燥ロール、送り込みロール等でスリップがなければ加熱炉内への入口部供給速度も一定となるものではある。しかし、現実は、右の要因や編み目の伸び等により、入口部速度は微妙に変化する。(なお、引上げロール、絞りロール、送り込みロールは、回転ロールのモーターにより伝達回転されており、帯状布を移送している。)

(二) 加熱炉内での移送速度〔Vx〕

加熱炉内は、五段のロールブロックからなり、各ブロックごとのモーターの回転速度によって、各ブロックの帯状布の移送速度が決定される。しかし、この場合もモーターの回転速度がそのまま移送速度となるわけではなく、前記と同様の要因により、移送速度は微妙に変化する。

また、加熱炉内の五個のモーターの回転速度は、各基準となる速度に設定され、第一段より第二段、第二段より第三段というように、後の方ほどより速い回転速度が基準として設定されているが、帯状布にかかるテンションの強弱により各々コントロールされる。つまり、各基準の回転速度は、当該ブロックの制御機構(回転制御ロール、オモリ、ロータリー可変抵抗器等)により変動するよう制御されている。

すなわち、帯状布の加熱炉内への送り込み速度、または前段のロールブロックの移送速度が前記の要因で、急に遅くなると、当該段のロールブロックの移送速度は変化がなくても、右の送り込み速度又は前段移送速度との関係では相対的に速度が遅くなる。つまり、前が遅く後が速いという設定された基準の回転速度に基づく移送速度差よりも大きい速度差が生じる。これは、帯状布にかける基準として設定されたテンションより大のテンションがかかるということである。

以上の状態(送り込み速度又は前段の移送速度が急に遅くなる)が生じると、当該ブロックの制御機構により当該ブロックの回転速度を遅くし、もって、送り込み速度又は前段の移送速度との速度差を基準の移送速度差に調整する。その結果、基準として設定されたテンションに戻し、帯状布に常に一定範囲のテンションをかけ、熱収縮しないようにしているのである。右の制御機構の作動状況を詳細にのべると以下の通りとなる。

〔送り込みロール又は前段の移送速度が急に遅くなると〕制御ロールがオモリに抗して上昇

ロータリー可変抵抗器がオモリの上昇を検知

ロータリー可変抵抗器の電気抵抗が大となる(モーターに流れる電流が減少する)

該段階のモーターの回転速度が減少して、加熱炉内の帯状布移送速度が落ちる(基準テンションに近づく)

〔送り込みロール又は前段の移送速度が基準速度に戻ると〕回転制御ロールは通常の位置に戻る。

逆に、前記の要因で、送り込み速度又は前段の移送速度が急に早くなると、基準のテンションより小のテンションとなるが、この場合は、以上で述べたのと逆の過程を辿り、もって、基準のテンションに戻し、帯状布に常に一定範囲のテンションをかけ、熱収縮しないようにしている。

(三) 加熱炉からの出口部引出速度〔Vb〕

出口部引出速度は、巻取側ロールのモーターの回転速度によって決定される。右モーターの回転速度は加熱炉内の最終段ロールブロックのモーターの回転速度より速く設定されている。そして、加熱炉内の最終段ロールブロックの帯状布移送速度と出口部引出速度が連携するよう、加熱炉内の六番目の制御機構により、その回転速度が制御されている。そして、出口部引出速度も前記の要因により微妙に変化することは、送り込み速度、移送速度と同様である。また、制御機構により回転速度が変化する過程は、加熱炉内のモーターと同じ機構によるものである。

(四) つまり、全体的には以上の各速度の関係は次のとおりとなる。

Va<Vx<Vb

3 被告らが加熱炉内の工程において右の如きフリーなテンション状態にしている理由は、編成工程で緩く網み上がったり、逆にきつく編み上がったりしている帯状布の編み目を均一化して安定よく整理するためである。もし、加熱炉内の帯状布を弛緩状態又は無緊張状態にしたならば、熱収縮処理の施されていないBの糸が熱収縮し、帯状布は湾曲してしまうことになる。そこで、加熱炉内からの引出速度を供給速度より大に設定することで、B糸が加熱により収縮しないようにテンションを加える(引っ張る)ようにするとともに、加熱炉内での帯状布の移送速度が前記の要因により急に変化した場合でも、基準となる速度差(引出速度-供給速度)を維持できるように制御しているのである。この速度差を一定範囲で維持制御している状態を、テンションの観点から説明すると、「フリーなテンション状態」ということになるのである。

原告は、被告らの実施している工程上、加熱炉内での加熱によりA糸、B糸、C糸は熱収縮すると主張する。仮に、加熱炉内からの引出速度を供給速度より小に設定、即ち加熱炉内での帯状布を「弛緩状態又は無緊張状態」にしたならば、A糸、B糸、C糸は熱収縮するであろう。しかし、被告らの実施している実際の工程においては、加熱炉内からの引出速度を供給速度より常に大に設定し、加熱炉内ではフリーなテンション状態として常に一定のテンションをかけているのである。したがって、A糸、B糸、C糸は熱収縮しないのである。

なお、被告らの実施している工程上、「帯状布の小なる熱収縮率を有する部分」とは、熱収縮処理をした残留熱収縮率〇・五%のC糸(三菱レーヨン製ソナーテA一一〇)のみで編成されている部分ということになるが、加熱炉内からの引出速度を供給速度より常に大に設定しているから、C糸も熱収縮することはない。

4 被告ら製造方法に関して、原告指摘の、被告島田商事及び被告らの説明ないし主張に若干の変更があったのは、次のような事情があったからである。

原告主張のとおり、被告新道繊維工業はベルト芯中間製品の加工業者、被告サンロールはベルト芯巻取製品の加工業者、被告島田商事はその販売会社であるため、本訴提起前は、各被告間においてもお互いの技術内容を知らなかったし、特に被告島田商事はその業種の性格上、加工過程についての技術知識に乏しかった。そのような状況にあったとき、被告島田商事は原告から突然に警告を受けたため、急遽被告新道繊維工業から口頭の説明を受け甲第五号証の回答書を原告に送付した。被告新道繊維工業は、本件訴訟の当初の段階では、ベルト芯中間製品の加工方法を同業者である原告に開示しない方針であった。それは、右中間製品の加工工程を開示しなくても、他の構成要件、即ち加熱炉引出し以降の接着剤粉末付与工程の部分において、本件発明の構成要件を充足せず、被告ら製造方法が本件発明の技術的範囲に属さないことを立証できると考えていたからである。そして、本件訴訟の当初、被告らと被告ら訴訟代理人・輔佐人間で改めて技術検討がされなかったため、被告らの主張としても被告島田商事が先にしていた甲第五号証の回答書と同内容のものとなったのである。しかしその後、被告らは被告ら製造方法の全てを開示するように方針を変更し、被告ら訴訟代理人・輔佐人が平成二年一月二三日被告新道繊維工業において、その装置及び製造方法の説明を受け、その結果被告ら準備書面(四)において被告ら製造方法を開示したのである。したがって、準備書面(三)までの被告らの主張と準備書面(四)以降の被告らの主張では表現上異なる部分はある。右差異は前記の事情によるものであるが、ただ実質的な内容は異なっていない。

仮に、百歩譲って、原告主張のとおりの自白が成立しているときは、その自白は真実に反し錯誤に基づくものであるから、右自白を撤回する。

5 平成四年九月七日被告新道繊維工業の工場において実施された検証の際に行なわれた同被告装置の稼働方法は、同被告が通常の製品を製造する際に実施している方法であり、従来より一貫して帯状布(ベルト芯布)加工に用いている方法である。

原告は、(1) 被告装置の巻取側ロールは改良されているが、帯状布を伸張するのならば巻取側ロールは改良する必要がない旨、(2) 帯状布を伸張するだけであれば、簡易な装置でよく被告装置のような複雑な機構は必要がない旨、(3) 被告ら製造方法のような糸の段階で熱収縮加工を施すのは、経費がかかり非合理的な方法である旨主張する。しかしながら、右原告主張は根拠のない主張である。

被告装置の可変抵抗器による変速モーター、五段階の加熱炉搬送ロールも、帯状布を伸張させ、かつ、徐々に加熱することで網目を均一化する熱セットを行なうために必要な機構であって、単に伸張させるだけの機構ではない。

逆に、本件発明のように「加熱装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せた熱収縮処理を施」すことの方が、複雑・精密な機構を必要とし、その開発・実施等に経費を要するのである。即ち、入口部供給速度と出口部引出速度の差異は、帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せるというが、熱収縮率は一種類の糸でも不変の絶対値ではなく部分部分で異なるし、気温等で変化する。更に、帯状布として編成されれば、そのうえバラツキが大きくなる。それにもかかわらず、一種類の糸ではなく、数種類の糸が編成された帯状布のうちの、小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せるように前記速度差を設けるというのが本件発明である。右のような変動する小なる熱収縮率を有する部分の収縮率の検知手段、その自動調整機構の構成を採用しようとすれば、被告装置では不可能である。被告装置は、入口部供給速度より出口部引出速度を大にして、帯状布を引き伸ばすようにしているからこそ、前記のような構成で十分なのである。

なお、宮村証言(証人調書21丁表~23丁裏)によれば、原告の帯状布の製造においても、小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せるように速度差を設けて帯状布を加工してはいない、換言すれば、本件発明を実施していないと推定される。

元々、本件特許請求の範囲にいう、「該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し」なる要件は、技術的願望ないし技術的課題にすぎず、小なる熱収縮率に合せた熱収縮処理を施すためには、如何なる具体的技術手段を講じればよいかについて、本件特許出願願書添付明細書のどこにも記載されていないのである。僅かに、発明の詳細な説明中に、「加熱装置10は入口に送給される帯状布の給布速度と出口部における引出速度との間に差が設けられており、前者が後者より大で帯状布は加熱装置10内において弛緩状態又は無緊張下で熱処理がなされる。この弛緩の割合は、入口部供給ロール9と引出しロール11とによって決められ、好ましい割合としては帯状布における最も小なる熱収縮率に合せてこれに適合するように選定される」(公報6欄43行~7欄7行)との記載のみである。しかし、この記載には技術上以下に示す大きな疑問がある。

(1) 入口部供給ロール9と引出しロールー1の回転速度を帯状布における最も小なる熱収縮率部分の収縮率に合せてこれに適合するよう選定するとのことであるが、その収縮率は一本の糸においても不変の絶対値ではなく、部分部分で異なると共に、気候や工場の雰囲気条件によっても変化するし、編成されれば尚更バラツキが大きくなる。そういう収縮率の変化を自動的に検知し、調節し得る機構が開示されていなければ、本件発明はたとえ当業者であっても実施することは不可能である。

(2) 入口部供給ロール9と引出しロール11の回転速度を帯状布における最も小なる熱収縮率部分の収縮率に正確に合せなければ、種々の不都合が生じることになる。即ち、もし最も小なる熱収縮率部分の収縮率よりも大きな割合で両ロール9、11の回転速度が決定されると、最も小なる熱収縮率を有する糸が十分収縮し得ず帯状布全体の残留収縮性が大きくなり、寸法安定性を阻害する結果となる。逆に、小さな割合で両ロール9、11の回転速度が決定されると、両ロール9、11間の帯状布の弛緩の割合が徐々に大きくなり、やがては帯状布Aは加熱装置10のヒーターに直接接触し、炎上することとなる。

以上の技術上の問題から、「帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理」に関する具体的技術は、明細書に開示されているとはいえないし、実際上、そのような微妙な調節を必要とする難しい熱処理は不可能といわなければならない。

被告らは、本件発明のように、熱収縮率の異なる糸を編成前において予め熱収縮処理を施すことなく編成し、熱収縮処理工程で潜在湾曲性を持たせながら真っ直ぐで、かつ、寸法安定性に優れたベルト芯中間製品を得ることは不可能であるとの前提に立って、帯状布の編成前に糸の段階で八〇%以上の糸に熱収縮処理を施し、二〇%以下の未熱収縮糸を仕上工程で収縮しないように張力をかけ、しかも五段階ものロールブロックを経ながら十分な仕上をすることにより帯状布を十分セットし、寸法安定性を高めているのである。しかし、帯状布に加工中不測の力が加わったり、弛緩したりした際に一定の範囲内で自動的に調節できるようフリーなテンションをかけているので、帯状布は編組織が引張られて若干伸びることとなる。この若干の伸びに対応させるためにも、出口部引出速度の方が入口部供給速度より速く搬出されるのである。

6 被告ら製品は原告製品よりも寸法安定性に優れている。その理由は、被告ら製造方法においては、(1) 帯状布の編成前に八〇%以上の糸に熱収縮処理を施しておき、二〇%以下の未熱収縮糸が仕上工程で収縮しないように適度なテンションがかかるよう一定範囲内のプリーなテンション状態で搬出するようにしたことと、(2) 五段階のロールブロックを通して相当長い距離と時間及び適度のテンションと熱をかけて仕上げることにより帯状布に対するセット効果を高めているからである(本件訴訟の当初の段階では、被告新道繊維工業はこの技術をノウハウとして秘匿し公開しない方針であった)。

二  争点2(イ号・ロ号方法は本件発明の構成要件〈4〉を具備するか)

イ号・ロ号方法の、「加熱炉を通して得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で……ロールコーターに導き、……溶融状のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗付し、その後、……ガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を満遍なく浸透させ」ることが、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融し」に該当するか。これと均等といえるか。

【原告の主張】

1 工程結合からなる方法の特許発明について、その各工程を異なる者が行なった場合でも、その特許権の侵害を構成するのである。判例(大阪地方裁判所昭和三六年五月四日判決・下民集一二巻五号九三七頁、判例タイムズ一一九号四一頁)も、「他人の特許方法の一部分の実施行為が他の者の実施行為とあいまって全体として他人の特許方法を実施する場合に該当するとき例えば一部の工程を他に請負わせ、これに自ら他の工程を加えて全工程を実施する場合、または数人が工程の分担を定め結局共同して全工程を実施する場合には、前者は注文者が自ら全工程を実施するのと異ならず後者は数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならないのであるから、いずれも特許権の侵害行為を構成するといえるであろう」と説示している。

本件事案においては、被告新道繊維工業が製造した「巻取ベルト芯中間製品」は全て被告サンロールに送られて同被告により「ベルト芯巻取製品」に仕上げられ、該製品の全ては、被告島田商事に納入されて販売されるという関係にあり、しかもその全ては被告島田商事の立案にかかる企画に基づいて実行されているのであるから、正に右判決のいう「数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならない」場合に該当し、被告ら全員が本件特許権侵害の責を負わねばならない。

次に、被告新道繊維工業が、加熱炉の出口部から搬出される帯状布を、一旦巻取って「巻取ベルト芯中間製品」とし、それが被告サンロールに送られ、同被告がこれに接着剤塗布を施すために、「巻取ベルト芯中間製品」を接着剤塗布工程に導くに当たって、被告新道繊維工業が帯状布を加熱炉から引出していた引出速度とは「異なる遅い速度」で、帯状布を移送させているということも、イ号・ロ号方法が本件発明の構成要件〈4〉の「次いで(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて(爾後の工程を行なうこと)」を欠如することとなるものではない。何故ならば、特許請求の範囲にいう「前記出口部引出部引出速度で移送させて」との要件は、移送速度を変える必要はないということを意味するに止まり、特許請求の範囲に記載されている要件以外の付加的要件を加えるような場合、その必要上速度を変更しても、本件発明の目的及び作用効果に何らの影響も与えないからである。

したがって、イ号・ロ号方法の、「加熱炉を通して得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において(爾後の工程を行なうこと)」は、本件発明の構成要件〈4〉の、「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて(爾後の工程を行なうこと)」に該当するというべきである。

2 ホットメルト接着剤を塗布するイ号・ロ号方法に関する記載を、本件特許請求の範囲における接着剤粉末を用いる接着剤の塗布に関する記載に倣って記述すると次のとおりになる。

「帯状布の一面に溶融状態のホットメルト接着剤をロールコーターにより圧着塗布し、再び加熱装置(ガスバーナー)を通して該接着剤を溶融した後加圧冷却を行なって帯状布に接着剤を圧着し、爾後冷却過程を経て巻取る」

右記載を本件特許請求の範囲中の対応部分と対比すると、相違点は、本件発明においては、接着剤として粉末接着剤を用いるので、それが帯状布の表面に付与されたときは粉末であり、帯状布が加熱装置を通されることによって溶融するのに対し、イ号・ロ号方法においてはホットメルト接着剤が用いられるので、予め溶融状態とした後に帯状布の表面に塗布されるという、粉末接着剤とホットメルト接着剤について本件特許出願前から公知の「用法の差異」のみであるから、ホットメルト接着剤は粉末接着剤と本件発明の接着剤塗布工程において均等物として用いられるものであると認められるべきである。

本件特許出願願書添付明細書の発明の詳細な説明には、「前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。」(8欄2行~4行)と記載した上で、これに続けて、「付与の手段は公知の各手段が任意に使用可能であるが、最も普通の付与としては散布手段が適用される。」(8欄2行~4行)と記載している。ここにいう「付与」が特許請求の範囲の「樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し」という要件を指していることは該文意から明らかであって、右説明は、この要件を具体化する手段としては、接着剤粉末の散布付与という特許請求の範囲に記載された手段の他に、「公知の各手段」が用いられ、必ずしも特許請求の範囲の文言どおりである必要はないこと、換言すれば、公知の手段である限り用い得ることを記載したものである。

ホットメルト接着剤は本件特許出願前から種々の分野で用いられていた(甲、一〇)。また、種々の繊維加工にもホットメルト接着剤が用いられており、ホットメルト接着剤を用いた「接着芯地」も知られていた(甲一一)。更にまた、布類の積層方法としてホットメルト接着剤を用いる方法が知られており(甲一一)、かかる接着剤の塗布方法として種々のロール方式も知られており(甲一一)、ロール方式の一種として「グラビアロールコーティング」、すなわち、イ号・ロ号方法の接着剤塗布工程に用いられているのと同様、エンボスローラーを用いる方式も知られていた(甲一一~一二)。

以上の諸事実に鑑みると、イ号・ロ号方法におけるロールコーターを用いてホットメルト接着剤を帯状布の一面に塗布する被告らの接着剤塗布工程は、本件特許出願当時の技術水準において、特許請求の範囲に記載の粉末接着剤の付与工程と均等の手段というべきである。

【被告らの主張】

1 本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを一連の好適な工程として時間的にも装置的(場所的)にも一連のものとしたことに特徴を有する発明であり、したがって、特許請求の範囲の「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との文言も、文字どおり、時間的にも装置的にも、熱収縮工程の出口部引出速度で接着剤塗布工程に移行することと解されなければならない。右の趣旨であるからこそ「一連の好適な工程が提供でき」るのであるし、「連続的なベルト芯布の処理が可能」となるのである。

以上の理は、本件特許出願願書添付明細書発明の詳細な説明における、「連続して製造する場合に帯状布に偏向が生じ、巻取り、その他に支障が生ずることになる。」(3欄37~39行)、「又、本発明は上記のベルト芯布を得るための一連の好適な工程を提供し」(4欄13~14行)、「以上の工程を経て、なお潜在収縮を保有する帯状布は連続ロール状に巻取り、保管又は運搬して使用地に向けられるが、その前に予め接着剤粉末、例えば熱感応性樹脂粉末を付与することが行われる。従って、前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。」(7欄38行~8欄1行)、「これらロールー3、14は通常引出しロール11と同一速度に保持され、同調的に帯状布Aを移行させるようにする。」(8欄15~17行)、「又、本発明は上記の如き方法により連続的なベルト芯布の処理が可能であり」(10欄33~34行)との記載並びに特許請求の範囲の「帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、……該接着剤粉末を溶融した後」との記載及びそれに対応する「熱感応性樹脂粉末を付与する」との記載からも明らかである。

本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連のものとしたからこそ、加熱された状態の帯状布に接着剤粉末を塗布することが可能なのである。もし帯状布が加熱されていないとすると、粉末の接着剤は塗布することが不能で飛散してしまうからである。以上を一言で言えば、本件発明は、連続工程とすることで熱収縮工程の余熱を利用して、接着剤粉末を塗布することに特徴を有するものである。

2 これに対し、イ号・ロ号方法は、加熱処理工程をした工場とは異なる工場において、加熱炉からの引出速度より遅い速度で、しかも常温下で接着剤塗布工程を行うものである。したがって、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで(イ) 前記出口部引出速度で移送させて」との要件を充足しない。

原告は、右の点に関し、「数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならない」旨、及び「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との意味は、「移送速度を変える必要はないということを意味する」旨主張する。しかしながら、特許発明の工程が時間的、装置的に分断可能な場合ならばともかく、本件発明のように、加熱処理工程と接着剤塗布工程とが時間的、装置的にも一連の工程、即ち分断不能としたことに特徴を有する発明の場合は、右原告の主張は成り立たない。また、「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との意味が「移送速度を変える必要はないということを意味する」と解することは、前記特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載から確定される、本件発明の技術的範囲を不当に拡大する解釈であり、不当であることは明らかである。

3 原告は、被告ら実施の接着剤塗布工程における「ロール・コーター法」は、本件発明の「接着剤粉末散布法」と均等の手段である旨主張する。しかしながら、本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の好適な工程としたことに特徴を有する発明であるからこそ、接着剤塗布工程に接着剤粉末を用いることができたものである。即ち、加熱された状態の帯状布であるから接着剤粉末を散布することが可能であるのに対し、ロール・コーター法では帯状布に余熱が残っていると溶融樹脂が帯状布内部にまで浸透してしまい、接着剤を適度に帯状布の表面に転写圧着することが不能となるのである。つまり、加熱された帯状布の場合は接着剤粉末散布法が適切な方法であり、ロール・コーター法は適切ではないが、逆に、常温下ではロール・コーター法が適切で、接着剤粉末散布法を用いることは粉末が飛散する関係で適切ではない。以上で明らかなとおり、接着剤粉末散布法とロール・コーター法は相互に互換性を有しないものである以上、ロール・コーター法をもって接着剤粉末散布法の均等手段ということはできない。

第四  争点に対する判断

一  (加熱炉における長手方向での熱収縮の有無)

原告は、被告らが、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くしている、イ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造している旨主張するが、右原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙一の1ないし3の各1、2、二の1ないし3の各1、2、三、四、検乙一ないし三四、被告新道繊維工業工場内設置装置の検証の結果)によると、被告ら製造方法においては、被告ら主張のとおり、未だ熱収縮されていない糸が加熱炉内で熱収縮しないように、連続細巾帯状布が入口部の供給速度より速い引出速度で出口部より搬出されているものと認められる。したがって、被告ら製造方法が本件発明の構成要件〈3〉の「加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施すこと」を具備しないことは明らかである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告ら製造方法は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

なお、被告島田商事の原告宛回答書(甲五)中に原告指摘の記載があり、被告らの準備書面中に原告指摘の記載があることは被告らも認めるところであるが、同回答書及び準備書面の右指摘部分を含む前後の記載全体からみると、同回答書及び準備書面において、被告島田商事ないし被告らの実施している製造方法が、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くするという、本件発明の構成要件〈3〉を具備することを否定していることは明らかであり、また、右原告指摘の記載も、その字句文言どおりであれば、熱収縮率を有する原料糸の全てが熱収縮してしまい潜在湾曲性を有しないものになるのであるから、被告らが、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くするという、本件発明の構成要件〈3〉を具備する方法で潜在湾曲性を有するベルト芯布を製造していることを認め(自白し)ていた旨の原告主張は採用できない。

二(イ号・ロ号方法は本件発明の構成要件〈4〉を具備するか)

1  本件発明の構成要件〈4〉について

(一) 本件特許請求の範囲に、「……熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出部引出速度で移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し」とあり、熱収縮処理工程に引続いて接着剤付与工程を設けること、加熱炉出口部引出部引出速度で移送させて接着剤を付与すること、付与する接着剤は樹脂粉末等の接着剤粉末であることが明記されている上、発明の詳細な説明中にも、「連続して製造する場合に帯状布に偏向が生じ、巻取り、その他に支障が生ずることになる。」(3欄37~39行)、「又、本発明は上記のベルト芯布を得るための一連の好適な工程を提供し」(4欄13~14行)、「以上の工程を経て、なお潜在収縮を保有する帯状布は連続ロール状に巻取り、保管又は運搬して使用地に向けられるが、その前に予め接着剤粉末、例えば熱感応性樹脂粉末を付与することが行われる。従って、前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。」(7欄38行~8欄1行)、「これらロール13、14は通常引出しロール11と同一速度に保持され、同調的に帯状布Aを移行させるようにする。」(8欄15~17行)、「又、本発明は上記の如き方法により連続的なベルト芯布の処理が可能であり」(10欄33~34行)と記載されている。

(二) 本件特許請求の範囲記載の樹脂粉末等の接着剤粉末の散布による接着剤の付与方法も、イ号・ロ号方法で使用されているホットメルト接着剤の塗付による接着剤の付与方法も、いずれも本件特許出願前から種々の分野で用いられており、種々の繊維加工にもホットメルト接着剤が用いられ、ホットメルト接着剤を用いた「接着芯地」も知られていたし、更にまた、布類の積層方法としてホットメルト接着剤を用いる方法が知られており、接着剤の塗布方法として種々のロール方式、ロール方式の一種としての「グラビアロールコーティング」(イ号・ロ号方法の接着剤塗布工程に用いられているもの)も知られていた(甲一〇~一三、弁論の全趣旨)にもかかわらず、本件発明では樹脂粉末等の接着剤粉末を選択しているのは、本件発明が、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の連続工程とすることで、熱収縮工程の残熱を利用して、加熱炉で加熱された状態の帯状布に接着剤粉末を塗布することを特徴の一つとしていると考えるのが合理的である。一五〇~一二〇℃(公報7欄23~24行)の熱収縮工程の残熱を利用して、加熱炉で加熱された状態の帯状布に接着剤を付与する場合、付与する接着剤としては接着剤粉末が適しており、ホットメルト接着剤は、後記のとおり溶融樹脂が帯状布内部にまで浸透してしまうことから、不適であると認められる。特許請求の範囲にも、帯状布の一面に「樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し」た後、「再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融し」と明記されている。

(三) 以上の諸点を併せ考えると、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて」は、特許請求の範囲の記載文言のとおり、時間的にも装置的にも、熱収縮工程の出口部引出速度で接着剤塗布工程に移行することであり、同構成要件の「(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、」は、特許請求の範囲の記載文言のとおり、(熱収縮工程の残熱を利用して)樹脂粉末等の接着剤粉末を付与することであると解さざるを得ない。

2  イ号・ロ号方法との対比

これに対し、イ号・ロ号方法は、加熱処理工程をした工場とは異なる工場において、加熱炉からの引出速度より遅い速度で、しかも常温下で樹脂粉末等の接着剤粉末とは異なる溶融状態のホットメルト接着剤を塗布するものであるから、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで(イ) 前記出口部引出速度で移送させて、(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、」との要件を充足しないというべきである。したがって、この点においても、被告ら製造方法は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

3  原告の主張について

原告は、加熱処理工程をした工場とは異なる工場において接着剤付与工程を実施することは、数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならない旨、及び「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との意味は、移送速度を変える必要はないということを意味するに止まる旨主張するが、特許発明の工程が時間的、装置的に分断可能な場合ならばともかく、本件発明は、加熱処理工程と接着剤塗布工程とを時間的、装置的にも一連の工程とした(分断しないで連続工程とした)ことをも一つの特徴にする発明と認められるから、右原告主張は到底採用できない。

また、原告は、イ号・ロ号方法の接着剤塗布工程における、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法は、本件発明の、接着剤粉末を散布する方法と均等の手段である旨主張する。しかしながら、本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の好適な工程としたことをも一つの特徴とする発明であると認められること、(熱収縮工程の残熱を利用して)加熱された状態の帯状布であるからこそ接着剤粉末を散布する方法が適用可能であるのに対し、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法をここに用いれば、帯状布に加熱処理工程の熱が残っているため、溶融樹脂が帯状布内部にまで浸透してしまい、接着剤を適度に帯状布の表面に転写圧着することが困難であると認められること、加熱されている帯状布の場合は、接着剤粉末を散布する方法が適切な方法であり、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法は適切ではないが、逆に、加熱されていない帯状布の場合では、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法が適切で、接着剤粉末を散布する方法を用いることは粉末が飛散する関係で適切ではないと認められること、以上を併せ考えると、(熱収縮工程の残熱を利用して)熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の好適な工程とした本件発明において、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法が接着剤粉末を散布する方法と置換可能であると考えることはできず、したがって、これを均等手段ということはできない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 阿多麻子)

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭55-27163

〈51〉Int.Cl.3A 41 D 27/06 識別記号 庁内整理番号 7030-3B 〈24〉〈44〉公告 昭和55年(1980)7月18日

発明の数 2

〈54〉潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法

〈21〉特願 昭52-20537

〈22〉出願 昭52(1977)2月25日

公開 昭53-106243

〈43〉昭53(1978)9月16日

〈72〉発明者 道前伸洋

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈72〉発明者 道前隆三

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈71〉出願人 道前伸洋

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈71〉出願人 道前隆三

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈74〉代理人 弁理士 宮本泰一

〈57〉特許請求の範囲

1 巾方向に一側より順次少くとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有する部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出部引出速度で移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、加圧冷却を行つて帯状布に接着剤を圧着し、爾後冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

2 帯状布が所要細巾一杯に振つた合繊モノフイラメント糸層面に他の合繊フイラメント糸からなる多数の並列糸条の各糸を隣接糸列間又は1列飛び以上に各列より同方向に横に振つて形成した横振り層として配層し、更にそれ等両糸層に更に長手方向に合繊糸を挿入して前記各列毎に連続せる縦編目ステツチで編止めした細巾編布であつて巾方向に一側より順次大なる熱収縮率を有する部分と小なる熱収縮率を有する部分又は大、中、小各熱収縮率を有する部分とが分布された編布である特許請求の範囲第1項記載の潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

3 帯状布の巾方向の熱収縮率の変化が熱収縮率の大なる糸によつて作られるステツチによる熱収縮率の差によつて生起される特許請求の範囲第1項又は第2項記載の潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

4 帯状布の巾方向の熱収縮率の変化が帯状布に施した熱収縮率の大なる下糸使用のミシン掛けによる熱収縮率の差によつて生起される特許請求の範囲第1項又は第2項記載の潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

5 巾方向に一側より順次、少くとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有せる部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し、出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出速度を保持して移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して、該接着剤粉末を溶融した後、外側面に接着剤を付与してなる支持布をその非接着剤付与面を対合面として前記帯状布と重合し、加圧冷却により両布を接合すると共に、支持布の外側接着剤面を圧着し爾後、冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

発明の詳細な説明

本発明はズボン、スカート等の腰裏芯地に用いる帯状布の処理方法に関するものである。

ズボン、スカート等の腰裏芯地には、従来織布、編布が一般に使用されているが、腰部の形態に合致すべく使用状態によつて扇形状に展開し、かつ立体的に反曲せる膨みを有していることが好ましいとされている。そのため基布一側縁を強く伸長しながらプレス処理を施し、基布を扇形状に変形させるとが、ベルト製作に際しいせ縫、いせプレスをするとかして扇形状を得ることが従来より行われて来た。

しかしながら、これらの方法は、基布自体に無理を生じ、裁断のロス部分が生じて作業的にも煩雑な手数を要し、非能率的であると共に理想的な彎曲を得ることが難かしい外、折角の扇形状もすぐに元の復元する欠点があつた。

近時、これを改良するものとして収縮率が夫々異なる糸を用いて帯状布の耳部における収縮率を異ならしめることが行われている。この帯状布は従来の芯地に比較し、基布自体の無理がなく、又簡単に所要の彎曲形状が得られる点で優れたものであるが、糸扱いが難かしく、収縮度合の調節が困難であることを免れないのみならず、整理加工妨縮加工並びに接着樹脂付与の際の加熱によりベルト布自体が彎曲を起し、重合するベルト表布を彎曲裁断しなければならない複雑な加工工程を必要とする欠点を有している。

本発明者は上記の如き実状に鑑み、収縮度合の調節を容易とし、腰部の形態に簡単に合致させ得る帯状布を提供すべく種々検討を重ね、巾方向に一側より順次大なる収縮率を有する部分から小なる収縮率を有する部分へ移行分布する帯状布を開発するに至つた。

しかしながら、かゝる収縮率の移行分布を有する帯状布の製造の困難さはその製作途中において熱処理により収縮が発現することであり、かゝる発現により扇形状を呈しては折角の帯状布のベルト芯としての性能が失われるのみならず、連続して製造する場合に帯状布に偏向が生じ、巻取り、その他に支障を生ずることになる。

ベルト芯布は爾後の工程において腰部表布に接着されて使用されるものであり、最も好ましい状態としては表布に接着し、ズボン、スカート等の腰部に取り付けられるまではその操作が容易であること、そして表布と共にプレス処理が施される場合には腰部形状に合致した扇形反曲形状が得られることである。

従つて、前記の如き収縮率の移行分布を有する帯状布において、その処理途中において爾後における潜在収縮による歪曲性を保持しつつ、しかも通常の帯状布と同様真直な状態を維持して処理がなされることは極めて好ましいことである。

本発明の第1の目的は、かゝる要望に対応し、収縮率の移行分布を有する帯状布であつても真直な状態を維持し、その爾後の処理が円滑に行われ、取扱いにおいて何等の支障を生じないベルト芯布の製造方法を提供することである。

又、本発明は上記のベルト芯布を得るための一連の好適な工程を提供し、これにより使用時において腰部の形態を良好ならしめる潜在的扇形反曲形状を有する帯状布を提供することである。

又、本発明の副次的な目的は、ベルト芯布を表布に接着して熱処理を施し、潜在的収縮を発現させ、ズボン、スカート等のベルト部分に良好な彎曲を付与せしめることである。

しかして上記の諸目的を達成する本発明方法の特徴は、巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する連続帯状布を糊付後、加熱ロールに少くとも1回以上捲回して乾燥を行い、次いで加熱装置内を入口部供給速度に比較し、出口部引出速度を小ならしめて帯状布の最小収縮率を有する部分の収縮率に合せて熱処理を施し、該収縮率の最小部分を熱安定せしめた後、帯状布一面に接着剤粉末を付着せしめ、爾後、前記出口部引出速度を保持したまゝ真直な状態を維持して接着剤粉末の溶融、水冷ロールによる圧着及び冷却を行い巻取ることによつて得られる。

又本発明は前記方法において接着剤粉末の溶融後に、外側面に接着剤が付与された不織布よりなる支持布を重合し、両布を共に爾後の水冷ロールによる加圧・冷却させ巻取ることを特徴とする。

以下、本発明の具体的な内容を添付図面を参照しつつ説明する。

第1図は本発明ベルト芯布の製造工程の1例を図示したものであり、ベルト芯布の基布をなす巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する帯状布Aを連続長尺状態をなしてガイドロール3を通し糊付槽2内の糊付ロール1並びに第2のガイドロール4を経て加熱ロール5、6、7、8よりなる乾燥ロールにより乾燥を行い、次いで加熱部供給ロール9により加熱装置10内に送り込み、引出しロール11を経て接着剤粉末容器12より接着剤粉末を散布付与せしめ、その後更に第2の加熱装置10’において接着剤粉末を溶融せしめた後、水冷ロール13により溶融接着剤を帯状布Aに圧着し、その後冷却ロール14を通つてロール15上に巻取る工程が示されている。

ベルト芯布の基布をなす巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する帯状布Aは、1例として第2図に図示する如く所要細巾の編巾一杯に振つた合繊モノフイラメント糸21の層の一面又は両面に他の合繊フイラメント糸22の多数からなる並列糸条の各列の糸を夫々、編成時、隣接針間隔間、又は1針飛び以上の間隔で各糸列より同方向に横に振つて形成した横振り層を配層し、それら両糸層に更に必要に応じ長手方向に合繊フイラメント24を挿入して各ゲージ毎に連続せる縦編目ステツチ23で編止めし、一体化せしめた連続長尺の細巾編布であつて、ステツチ23或いは挿入フイラメント24に一側より巾方向に複数に区分して大なる熱収縮率を有する糸と小なる熱収縮率を有する糸を使用し、或いは大、中、小の熱収縮率を有する糸を順次使用して、若しくは収縮性糸条を下糸とするミシン掛けを行い、そのミシン掛け条数又は収縮性糸条の太さを耳部中央部等において変えることによつて巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する如く形成した帯状布である。なお、編目ステツチ糸と挿入フイラメントの双方を熱収縮率の異なる糸の併用としてもよく、又、挿入糸の番手を変えてもよく、これらによつて収縮率の移行分布を有する如く形成することが出来る。

細巾編布を構成するフイラメント21、22、24としては、ナイロン、ポリエステル繊維等の合成繊維が素材として使用されるものであり、特に合繊フイラメント22、24は合繊モノフイラメント糸21よりも熱収縮率の大きいナイロン、ポリエステル繊維等の合成繊維が好ましく、さらに片面を接着用とする時はナイロン12、又はポリエチレンと塩化ビニール系の重合体等の低温溶融糸を使用することが出来る。しかし、本発明の如く接着剤とする別途の接着剤粉末を付与する場合は使用する必要はない。

一方、ステツチ23により収縮性を付与する場合には、ステツチ形成糸としてナイロン12、塩化ビニール系繊維等を用いる。又、挿入糸24の場合にも同様な糸の使用が適用されるが、通常は120℃位までに高収縮を起す塩化ビニール系合成繊維を主として使用する。なおこの場合の塩化ビニール系繊維は、塩化ビニール重合体繊維の外、塩化ビニールと塩化ビニリデンとの共重合体繊維、ならびにそれら繊維と他の繊維との混紡からなる混紡糸等の全ての繊維糸を包含する。

又、熱収縮率を異にするフイラメントは糸の種類を変えてもよく、又は同一種類の糸の場合には延伸時における延伸倍率を変え、収縮率を異ならしめたものでもよい。

何れの場合においてもベルト製作時において、ベルト上縁と下緑との収縮差は4cm巾で5%内外が好適であり、人体の腰部に最もよく適合させることが出来る。

又上記帯状布Aの糊付は、帯状布Aに対し整形加工を容異ならしめると共に、布自体の強度、腰を増すものであり、公知の樹脂水溶液が適用される。

湖付された帯状布の乾燥は、引続き加熱ロール5、6、7、8により行われるが、ロール5、6及びロール7、8を各1組として少くとも1回以上各組ロール5、6及び7、8に捲回することにより行われる。

この場合、加熱ロールのロール温度は帯状布の構成繊維素材の種類により若干異なるが、ナイロン又はポリエステル繊維が使用されている場合には約160~170℃位である。なお、図では2組の加熱ロールを通して乾燥しているが、素材に応じ1組又は3組以上とすることも差支えない。

又、複数組の場合、各組における加熱温度は同一温度でもよく、順次異なる温度でもよく、更にロールを配した加熱室としてもよい。

乾燥された帯状布は次の加熱装置10による熱処理工程に送られるが、この工程は本発明方法により作られるベルト芯布の性能を決める上に極めて重要な役割を有している。即ち、この工程において帯状布Aを構成する繊維素材の熱安定化、潜在収縮の残留等が決定づけられる。

加熱装置10は入口に送給される帯状布の給布速度と出口部における引出速度との間に差が設けられており、前者が後者より大で帯状布は加熱装置10内において弛緩状態又は無緊張下で熱処理がなされる。この弛緩の割合は、入口部供給ロール9と引出しロール11とによつて決められ、好ましい割合としては帯状布における最も小なる熱収縮率部分の収縮率に合せてこれに適合するように選定される。

従つて熱処理が施された帯状布においては、その最も小なる熱収縮率部分は最大限に収縮され、熱による安定化が進んで爾後の熱処理、例えばプレス処理においてもそれ以上の収縮を起すことがないが、大なる熱収縮率部分はある程度収縮が起るとしても熱安定化が完全に進まず、爾後の熱処理によつて尚、収縮を起し得る潜在能を保有している。

しかし、帯状布自体の外観においては、合繊モノフイラメント糸層21と合繊フイラメント糸層22の収縮率に差があれば、この収縮差により巾方向にカールするが、長手方向においては収縮度の相違による捩れ、反り等の変形は全く起つていない。

上記の如き熱処理は、その性格上、熱安定化可能な温度であることが必要であり、通常150℃位に保持される。爾後の熱処理は120~140℃であり、熱安定化した部分は収縮することはない。

今、ナイロン及びポリエステル繊維糸を使用して熱収縮率の異なる各部分のステツチを行つた場合には、ポリエステル繊維糸は繊維性能から熱安定化が進み爾後のプレス処理により収縮を起さないが、ナイロンは熱安定化が進まず尚、残留収縮を保有した状態であるためプレス処理において収縮を起すことになる。このことは帯状布Aの構成フイラメントがポリエステル繊維からなる場合、或いはナイロンからなる場合においてステツチの糸を適宜ナイロン、又はポリエステル繊維糸とした時においても同様である。

以上の工程を経て、なお潜在収縮を保有する帯状布は連続ロール状に巻取り、保管又は運搬して使用地に向けられるが、その前に予め接着剤粉末、例えば熱感応性樹脂粉末を付与することが行われる。従つて、前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。

付与の手段は公知の各手段が任意に使用可能であるが、最も普通の付与としては散布手段が適用される。

かくして接着剤が付与された帯状布は、次に配置された第2の加熱装置10’を通ることによりその一面に付与された接着剤粉末を溶融し、水冷ロール13により溶融された樹脂粉末を帯状布面に圧着させる。この場合、ロール13は水冷であり、ロール面に接着剤が付着することはない。

水冷ロール13を通過した帯状布Aはロール13から冷却ロール14の間で冷却された後、ロール巻に形成される。なお、更に冷却が必要であれば、水冷ロール13と冷却ロール14との間に送風し、冷却してもよい。又、これらロール13、14は通常引出しロール11と同一速度に保持され、同調的に帯状布Aを移行させるようにする。そしてこの間、帯状布がその熱収縮大なる部分において残留収縮を有しているに拘らず真直な状態で移行することは重要なことである。

以上のようにして得られたロール状に巻かれた帯状布15は縫製によるズボン、スカート等の製作に供され、表布に接着してプレス熱処理を施し、潜在された収縮が発現される。

次に、本発明帯状布における収縮率の移行分布を作る構成について例示すれば、帯状布の組織的収縮低抗とベルト布の収縮抵抗を加味すると、相当の強力な収縮力が必要であり、生産管理上からも、又熱管理上からしても最も好ましい構成として挙げられるものは、編目ステツチ糸にポリエステルフイラメント、挿入フイラメント糸に収縮率の大きい塩化ビニール系繊維とポリエステル系繊維等の混紡糸、例えばビンデン(登録商標)を用いた帯状布である。これを更に詳述すると、巾を3区分し、挿入糸を一側部よりポリエステル糸、次の中央部にはビンデン(登録商標)を編成時、斜列の針間隔飛び又はそれ以上に、更に反対側部にはビンデン(登録商標)を各列に挿入し、ポリエステル糸からなる編目ステツチで一緒に編込み止める。そして3区分の巾の比率を変えることにより更に自由に収縮差を簡単に得ることが出来る。

ビンデン(登録商標)の使用が好ましい理由としては、塩化ビニール系100%のポリ塩化ビニール系繊維は収縮力が大きく、かつ熱セツト性が弱く、又、60~80℃位で収縮が始まり、理想的な繊維であるが、高温に弱く、120℃以上にては溶断が起る場合があり、温度管理が難しいからである。

前記ビンデン(登録商標)はこの点、耐熱性繊維を混紡し、耐熱性が向上されているので工程の加熱に耐え、温度管理がし易いという利点を有している。

又、縦編目ステツチ糸のポリエステルフイラメント糸は、熱セツト性があり、乾燥段階でもセツトされ、乾燥時温度が150℃以上であれば爾後の接着剤付与の加熱温度及び使用時の熱接着ならびにプレス温度が120℃~150℃であるため収縮せず、加熱装置による特別な加熱を必要とせず能率的である。

第3図は本発明の第2の発明に係る方法を例示したものであり、帯状布Aを連続長尺状態でガイドロール3、糊付槽2、第2のガイドロール4、加熱ロール5、6、7、8よりなる乾燥ロールを経て、供給ロール9から加熱装置に送り込み、引出しロール11を通つて接着剤粉末容器12から接着剤粉末が散布され、更に第2の加熱装置において該接着剤粉末が溶融される迄は前記第1の方法と同様であるが、第2の加熱装置10’と水冷ロール13との間において別途、外側面に接着剤17が付着された、例えば不織布よりなる支持布16が供給され、帯状布Aと重合されて共に水冷ロール13による加圧作用を受け、帯状布Aの溶融した接着剤により両布Aと16の接合が行われると共に、外側接着剤面が圧着され、その状態で爾後の冷却巻取りを行うことが示されている。この場合に供給される不織布よりなる支持布と帯状布との重合位置においては夫々ラツパ管(図示せず)により位置セツトを行うことが特別な技術を要することなく正確に連続して重合接着することが出来好適である。

第4図、第5図は上記の如き方法により得られた前記潜在歪曲性を有するベルト芯布Aの縫製の態様を示すものであり、前記ベルト芯布Aが所要長さに切断されズボン又はスカートの本体27の腰部に当接され、プレス熱処理によつて扇形反曲状に変形された状態が図示されている。

ベルト芯布Aの取り付けは第5図に見られる如く接着剤の面において表布25内面に接着し、裏当布26を介して共に本体27に縫着して行い、プレス熱処理により接着剤の溶融による接着と共に帯状ベルト芯布の残留収縮が発現し、扇形反曲状を呈する。

かくしてズボン、スカート等の腰部に内蔵して取着されたベルト芯布は、一度のプレス熱処理において容易にズボン、スカート等の腰部形状を使用者の腰部形状に適合せしめることが出来る。

なお、上記説明においては縫着完成後、接着収縮ベルトの扇形化を仕上プレスの加熱処理と同時に行う場合を述べたが、予め帯状布Aとベルト表布25とを加熱接着させて加熱収縮を起させ、彎曲したベルト部を作り、然る後、本体27の上縁に裏当布26と共に取り付けるようにすることも可能である。

以上のように本発明製造法は、ベルト芯布として好適な扇形反曲形状をズボン、スカート等のベルト部に容易に付与せしめることが出来るものであり、しかも巾方向において熱収縮性を異にするに拘らず、最小の熱収縮率部分の収縮率に合致して収縮せしめるものであるから、熱収縮率の大なる部分において残留せる収縮能が保有されているにしても、全体として帯状布の形状は特に変形されることなく真直な状態で処理加工が行われ、潜在歪曲性を備えたベルト芯布の加工時における取扱いならびに処理の円滑さは勿論、連続長尺のベルト芯布を縫製業者に運搬する上において頗る有用であり、縫製時におけるプレス加熱処理による接着剤の溶融作用と同時に、一挙に変形作用が可能であることと相俟つてズボン、スカート等のベルト部構成の合理的方法として極めて効果的な方法である。

又、本発明は上記の如き方法により連続的なベルト芯布の処理が可能であり、生産性の向上はもとより、その品質の面においても均一なベルト芯布を得ることが出来、頗る実際的方法である。

図面の簡単な説明

第1図は本発明製造法の工程を略図的に示した概要図、第2図は本発明方法に使用される帯状布の一部図示平面図、第3図は本発明製造法の第2の工程を略図的に示した概要図、第4図は本発明により製造されたベルト芯布の使用態様図、第5図は第4図におけるX-X線矢視方向断面図である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

目録(一)

イ号方法説明書

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理されている。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを具えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、右帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で予め熱収縮処理されて熱収縮残留率の小さい糸の熱収縮残留率以上に熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度と、同図記載の出口部よりの引出速度とが調節されつつ搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させた上、加圧冷却を行ない、その後、自然冷却しつつ巻き取ってベルト芯巻取製品を得る方法。

目録(二)

ロ号方法説明書

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理されている。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを備えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、右帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で予め熱収縮処理されて熱収縮残留率の小さい糸の熱収縮残留率以上に熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度と、同図記載の出口部よりの引出速度とが調節されつつ搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させる。その後、不織布ボビンから導出された一方の面に接着剤が塗布されている不織布を、該不織布の接着剤が塗布されていない面と、前記帯状布のホットメルト接着剤の塗布されていない面とを重ね合わせて不織布側の接着剤を溶融しないように配慮しつつ両者を加圧貼着し、不織布を貼り合わせた帯状布を自然冷却しながら巻き取って、片面に不織布の張り合わせたベルト芯巻取製品を得る方法。

〔仕上装置の全体図〕

:表006

:表007

被告ら主張目録(一)

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理済である。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを具えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、右帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度より速い引出速度で同図記載の出口部より搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメトル接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させ、その後、自然冷却しつつ巻き取ってベルト芯巻取製品を得る方法。

被告ら主張目録(二)

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理済である。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを備えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、石帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度より速い引出速度で同図記載の出口部より搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメトル接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させる。その後、不織布ボビンから導出された一方の面に接着剤が塗布されている不織布を、該不織布の接着剤が塗布されていない面と、前記帯状布のホットメトル接着剤の塗布されていない面とを重ね合わせて不織布側の接着剤を溶融しないように配慮しつつ両者を加圧貼着し、不織布を貼り合わせた帯状布を自然冷却しながら巻き取って、片面に不織布の張り合わせたベルト芯巻取製品を得る方法。

平成元年(ワ)第二一三二号 特許権侵害禁止等請求事件

判決

広島県芦品郡新市町大字戸手二三八二番地の六

原告 株式会社ミツボシコーポレーション

右代表者代表取締役 道前伸洋

右訴訟代理人弁護士 品川澄雄

同 滝澤功治

大阪市中央区船越町一丁目四番七号

被告 島田商事株式会社

右代表者代表取締役 島田行雄

福井県坂井郡金津町伊井第六〇号一番地

被告 新道繊維工業株式会社

右代表者代表取締役 新道忠志

大阪府豊中市名神口一丁目一三番一五号

被告 株式会社サンロール

右代表者代表取締役 中西明

被告ら訴訟代理人弁護士 村林隆一

同 今中利昭

同 吉村洋

同 浦田和栄

同 松本司

同 森島徹

同 豊島秀郎

同 辻川正人

同 東風龍明

右輔佐人弁理士 小谷悦司

同 亀井弘勝

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一 請求の趣旨

一 被告らは別紙目録(一)記載の方法を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を製造し販売してはならない。

二 被告らは別紙目録(二)記載の方法を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を製造し販売してはならない。

三 被告島田商事株式会社及び被告株式会社サンロールはその所有する、前二項記載の方法を用いて製造された各ベルト芯巻取製品を廃棄せよ。

四 被告新道繊維工業株式会社は別紙目録(一)及び(二)各前段記載の方法を用いて製造したベルト芯中間製品を廃棄せよ。

五 被告らは、連帯して、原告に対し金二〇〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

一 原告並びに被告島田商事株式会社(以下「被告島田商事」という)及び被告新道繊維工業株式会社(以下「被告新道繊維工業」という)はいずれも芯地その他の縫製資材の販売等を業とする会社であり、被告株式会社サンロール(以下「被告サンロール」という)は服飾付属品の売買等を業とする会社である(争いがない)。

二 原告は次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲1項記載の発明を「本件発明(一)」、同5項記載の発明を「本件発明(二)」、両者をまとめて「本件発明」という)を有している(争いがない)。

登録番号 特許第一一一一〇二七号

登録年月日 昭和五七年八月三一日

発明の名称 潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法

出願公告日 昭和五五年七月一八日(特公昭五五-二七一六三)

出願年月日 昭和五二年二月二五日(特願昭五二-二〇五三七)

特許請求の範囲

「1 巾方向に一側より順次少なくとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有する部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出部引出速度で移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し、爾後冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

《2項ないし4項は別添特許公報(以下「公報」という)の該当欄に記載のとおり。》

5 巾方向に一側より順次、少なくとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有せる部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し、出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出速度を保持して移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して、該接着剤粉末を溶融した後、外側面に接着剤を付与してなる支持布をその非接着剤付与面を対合面として前記帯状布と重合し、加圧冷却により両布を接合すると共に、支持布の外側接着剤面を圧着し爾後、冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。」

三 本件特許請求の範囲記載の発明は、「潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法」の発明であって、特許請求の範囲2項ないし4項記載の発明は1項記載の発明(本件発明(一))の実施態様項であり、同5項記載の発明(本件発明(二))は、1項記載の発明(本件発明(一))の構成に欠くことができない事項を、その構成に欠くことができない事項の主要部としている発明である(争いがない)。

四 本件発明の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

1 本件発明(一)

〈1〉 巾方向に一側より順次少なくとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有する部分とが分布された連続帯状布Aを原材料とすること。

〈2〉 これを糊付、乾燥すること。

〈3〉 その後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施すこと。

〈4〉 次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、

(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、

(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、

(ニ) 加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し、

(ホ) 爾後冷却過程を経て巻取ること。

〈5〉 以上を特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

2 本件発明(二)

〈1〉 本件発明(一)の構成要件〈1〉に同じ。

〈2〉 本件発明(一)の構成要件〈2〉に同じ。

〈3〉 本件発明(一)の構成要件〈3〉に同じ。

〈4〉 次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、

(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、

(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、

(ニ) 加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し、

(ホ) 外側面に接着剤を付与してなる支持布をその非接着剤付与面を対合面として前記帯状布と重合し、

(ヘ) 加圧冷却により両布を接合すると共に、支持布の外側接着剤面を圧着し

(ト) 爾後、冷却過程を経て巻取ること。

〈5〉 以上を特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法

五 被告らの行為

業として、被告新道繊維工業は別紙目録(一)及び(二)各前段記載の「巻取ベルト芯中間製品」を製造し、これを被告サンロールに送り、同被告が同各目録後段記載の「ベルト芯巻取製品」に仕上げ、これを被告島田商事に納入し、同被告がこれを販売している。同各目録後段記載の「ベルト芯巻取製品」は本件特許請求の範囲にいう「潜在歪曲性を有するベルト芯布」に該当する。(争いがない)。

被告らの右各製品ないし中間製品の製造方法について、原告は、別紙目録(一)及び(二)記載のとおりである旨主張するのに対し、被告らは別紙被告ら主張目録(一)及び(二)記載のとおりである旨主張するが、争いのある部分は、別紙目録(一)及び(二)並びに被告ら主張目録(一)及び(二)中、傍線を付した部分のみであり、他の部分については争いがない。

六 原告の請求の概要

被告らが別紙目録(一)記載の方法(以下「イ号方法」という)を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を、別紙目録(二)記載の方法(以下「ロ号方法」という)を用いて同目録記載のベルト芯巻取製品を各製造販売していること、及びイ号方法が本件発明(一)の技術的範囲に属し、ロ号方法が本件発明(二)の技術的範囲に属することを理由に、被告らに対し、その製造販売の停止等と昭和六〇年六月から昭和六三年六月までの間に被告らの右製造販売により原告に生じた損害二一六〇万円の内金二〇〇〇万円の賠償を請求。

七 争点

1(加熱炉における長手方向での熱収縮の有無)

被告らは、原告主張のイ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造しているか。即ち、被告ら実施のベルト芯巻取製品の製造方法(以下「被告ら製造方法」という)は、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くしているか。

2(イ号・ロ号方法は本件発明の構成要件〈4〉を具備するか)

イ号・ロ号方法の、「加熱炉を通して得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で……ロールコーターに導き、……溶融状のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗付し、その後、……ガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を満遍なく浸透させ」ることが、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融し」に該当するか。これと均等といえるか。

第三 争点に関する当事者の主張

一 争点1(加熱炉における長手方向での熱収縮の有無)

被告らは、原告主張のイ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造しているか。即ち、被告ら製造方法は、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くしているか。

【原告の主張】

1 被告らの実施するイ号・ロ号方法においては、帯状布は加熱炉の中を通過しつつ加熱されることによって最も熱収縮残留率の小さい糸の熱収縮残留率の範囲内の熱収縮を生じ、加熱炉の出口部の引出速度はその限度で入口部の供給速度よりも遅く(小さく)なる。被告らがこの方法を実施していることは次の諸点からも明らかである。

2 被告らが本訴対象物件の連続細巾帯状布(NC-一三〇)に用いているという「A糸」(三菱レイヨン製ソルーナA一一〇、一五〇デニール/四八フィラメント糸-被告ら技術説明書一頁参照。同説明書添付資料2の写真における黄色糸)、「B糸」(東レ製九一五、一五〇デニール/三〇フィラメント糸-同黒色糸)及び「C糸」(三菱レイヨン製ソルーナA一一〇、七五デニール/二四フィラメント糸-同白色糸)は、いずれも、同技術説明書においても残留収縮性を残していると記載されている。すなわち、同技術説明書によれば、「A糸」の熱収縮率はO・五%、「B糸」のそれは八・三%、「C糸」のそれは三・九%である。被告らの右連続細巾帯状布(NC-一三〇)には、右三糸の他に「D糸」(同水色糸)も用いられている。しかし、「D糸」は、同技術説明書添付資料2に示される如く、横振り糸として用いられており、本件における熱収縮の問題は縦方向の熱収縮であるから、横振り糸「D糸」の加熱による熱収縮に検討を加える必要はない。また、被告らのもう一つの連続細巾帯状布(NC-一五〇)には、右NC-一三〇編成糸の他に、更に「E糸」(東レ製B二〇N、一五〇デニール/二フィラメント、四八フィラメント双糸使い-同青色糸)が用いられている。しかし、この「E糸」も横振り糸であるから、「D糸」と同様その熱収縮率に考慮を払う必要はない。以上のとおり、被告らが加熱炉に送り込む右二種の連続細巾帯状布は、いずれも加熱によって熱収縮を生じ得る潜在的収縮性を保有している。

平成二年一一月三〇日当庁において開催された技術説明会において、被告らは、「加熱炉」の加熱温度は一四〇~一五〇℃であると述べた。甲第六号証(試験成績書)は、甲第七号証(陳述書)記載のとおり、被告島田商事の販売にかかる帯状布NC-一三〇を資料No.1とし、帯状布NC-一五〇を資料No.2として、広島県立東部工業技術センターに依頼した試験の結果を記載した書面であるが、その試験結果によれば、両資料は共に一二〇℃、一四〇℃、一六〇℃の三種の乾熱プレス試験において熱収縮を起こしている。この両資料は、添付の帯状布にみられる如く不織布の貼り合わされたロ号方法によって得られた製品たるベルト芯巻取製品の切断片であって、加熱炉を出て巻取られた巻取ベルト芯中間製品ではないが、このように最終製品でも一二〇℃、一四〇℃の乾熱によって長手方向に熱収縮を生じている以上、帯状布が加熱炉に供給され、一四〇℃ないし一五〇℃の熱風加熱(乾熱)を受けた時熱収縮を起こさないことはあり得ない。

他方、被告ら使用の加熱炉の構造は次のとおりである。別紙添付の図面1記載のとおり、加熱炉の入口部に設けられている送り込みロールは乾燥ロールのモーターによって回転する。乾燥ロールのモーターには手動変速機が設けられているが、この手動変速機は装置の運転中変速されることはあり得ない。乾燥ロールや絞りロールは定速で運転しなければならないからである。したがって、乾燥ロールや絞りロールの回転速度は一定であり、送り込みロールの回転速度も一定である。すなわち、送り込みロールは定速で帯状布を加熱炉に送り込む。

加熱炉内には五段階のロールブロックが設けられているが、その駆動機構と駆動状態を明らかにするには、一ブロックについて検討すれば足りる。そこで、最も出口部に近い最終段階のロールブロックを見るに、このロールブロックには、上部に四個の搬送ロールが設けられ、下部に三個の搬送ロールと一個の回転制御ロールが設けられている。後から二段階目のロールブロックの下部に設けられた回転制御ロールを通過した帯状布は、次に上部の搬送ロールを経て下部の搬送ロールを通り、さらに上部の搬送ロールを経るという繰り返しを経て下部の回転制御ロールに達し、これを経て加熱炉の上部に設けられた出口部を出て巻取側ロールに巻取られる。

回転制御ロールには、別紙添付図面1の「回転制御ロールの部分図」に示されているように、その支軸の一端に支持棒を設けたオモリが取付けられ、また帯状布は支軸に二本のアームによって結合された短いロールに通されている。支軸の他端には歯車とこれに連動するロータリー可変抵抗器が設けられ、可変抵抗器はモーターに接続している。そして、

(1) オモリと帯状布の通された短いロールとは、それらの重量によって下方に下降しようとする働きをする。一方、短いロールに通されている帯状布は、その張力によって短いロール、したがってオモリを上方に引き上げようとする。オモリと短いロールとが一定位置に静止しているのはオモリ及び短いロールの重量と、帯状布の張力とが釣り合っているからである。イ号・ロ号方法による製造を開始するに当たっては、帯状布はオモリ及び短いロールと釣り合うようにロールブロックに掛け回される。

(2) ロールブロックが駆動して熱風(一四〇~一五〇℃)が加熱炉内に送り込まれると、帯状布は前述したとおり熱収縮を起こす。これは帯状布の張力が大きくなることを意味する。オモリ及び短いロールの重量が一定であるにもかかわらず、帯状布に張力が加わるため、オモリと帯状布を通した短いロールとは上方に引上げられる。

(3) オモリと短いロールとが上方に引上げられると、それに伴って回転制御ロールの支軸は回転し、その回転は歯車を経て、ロータリー可変抵抗器に伝わり、モーターの回転速度を低速に変える。

(4) 加熱炉の出口部外側に設けられた巻取側ロールは右のモーターで回転する。このモーターが低速に変るのであるから、巻取側ロールの回転が遅くなることは多言を要しない。

(5) 別紙目録(一)及び(二)には、加熱炉内で帯状布は「フリーなテンション状態」である旨記載されている。これは、被告らの主張に従って挿入した語句であるが、「フリーなテンション状態」とは、加熱炉内において帯状布が各ロールを通過するに当たって、何処にも弛みを持たず、また何処にも特別の張力の加わらない状態を指している。それは、つまり、回転制御ロールのオモリ及び短いロールの合計重量と帯状布の張力とが釣り合っていることを意味している。

(6) 以上によって、被告らの実施するイ号・ロ号方法においては、加熱炉の出口部の引出速度は入口部の供給速度よりも遅い(小さい)ことが明らかである。

3 被告新道繊維工業で使用している加熱装置は株式会社谷内田製作所製の細巾編物用防縮機であり、被告らはてれを改良型と主張しているが加熱炉には何ら改良の跡が見られない。

本件処理方法のように熱収縮率の大きい糸とそれの小さい糸を用いて一側より順次熱収縮率の異なる帯状布に熱収縮処理を施す場合には、熱収縮率の大きい糸の熱収縮力に対応して回転制御ロールを下に引っ張るようにオモリで調整する。帯状布全体としては熱収縮率の小さい糸の熱収縮力が加わるので帯状布全体の熱収縮力は回転制御ロールの下に引っ張っている力より大となり、回転制御ロールは上昇して可変抵抗器を経て変速モーターを遅らせる。熱収縮率の小さい糸が完全に熱収縮すると熱収縮力は零となる。

熱収縮率の大きい糸の収縮力とオモリを下に引っ張っる力が均衡し、熱収縮率の大きい糸は熱収縮率の小さい糸の熱収縮以上は熱収縮しないで、熱収縮率の大きい糸の熱収縮率が残留し、潜在湾曲性を有した帯状布が真っ直ぐな状態で作成されるのである。

しかしながら、帯状布は時間と共に熱収縮を起こすものであるので、被告新道繊維工業使用の加熱炉では、五個の回転制御ロールを設けてあり、各回転制御ロールはそれぞれの箇所で熱収縮に対応してモーターの回転を遅らせる。この場合、オモリの調整が難しく、なお、搬送ロールの間は長く、巻取ロールの段階で多少湾曲を生じ、真っ直ぐに修正しなくてはならないので巻取ロールの約半周にベルトを密着させて動かせ、その間に帯状布を挟んで真っ直ぐに修正している。同被告使用の防縮機(加熱炉)には何ら改良が施されていないけれども、巻取ロールはこのように改良されている。帯状布を伸張して仕上げるのであれば、このような改良の必要は全くない。この巻取ロール改良の事実からみても、被告らが帯状布に熱収縮処理を施していることは明らかである。

4 被告島田商事は、原告代理人が同被告宛に出した昭和五八年九月三日付警告書に対する同月二六日付回答書(甲五)において、「当社の熱収縮工程は、ノンテンション下で徐々に温度を高めて、原料糸の収縮限界まで自由に収縮させる処に特徴を有し、入口部及び出口部のローラーはフリーの状態であって速度制御は行なっておりません。」と明言した。右回答によれば、加熱炉に帯状布を通過させる工程において、〈1〉帯状布は熱収縮を生じること、〈2〉加熱炉の入口部のローラー及び出口部のローラーは速度制御が施されていないのであるから、帯状布が加熱炉の中において熱収縮を生じる限度において出口部ローラーは入口部ローラーよりも遅い速度で回転していることは明白であった。しかも、同被告の右説明は、原告が同被告に対して何らかの誘導を加えたためにされたというものではなく、被告ら自身の製法を自発的に明らかにするためになされた説明なのである。そして、加熱炉をかかる用法で用いることは、加熱炉として用いられている「ヤチダの防縮機」の極めて正当な用法に他ならない。

そのうえ、被告らは、平成元年六月三〇日付準備書面(一)においても、「同被告(裁判所注・被告新道繊維工業)で行なっている熱収縮工程は、被告島田商事株式会社の昭和五拾八年九月二拾六日付回答書(甲第五号証)に於いて述べたとおり「ノンテンション下で徐々に温度を高めて、原料糸の収縮限界まで自由に収縮させる所に特徴を有し、入口部及び出口部のローラーはフリーの状態であって速度制御は行なっておらない。」(2枚目裏12行目~3枚目表3行目)ものであり、変形防止は熱収縮処理工程に入る前処理に工夫を凝らすことにより大部分達成しており、それでも熱収縮処理工程で若干扇形に変形するが、製品として支障のない程度である」と主張し、更に、平成元年九月一日付準備書面(二)においても、「同被告(裁判所注・被告新道繊維工業)の加熱装置にも入口部及び出口部を有するが、それぞれのローラーはフリーの状態であって、速度制御は行なっておらない。そして、ノンテンション下で加熱装置内の温度を徐々に高めて、原料糸の収縮限界まで自由に収縮させるものである。」と主張していた。このように被告らは昭和五八年九月二六日付回答書(甲五)以降平成元年九月一日付準備書面(二)に至るまで、自ら進んで、被告ら製造方法における加熱炉を経る工程は、熱収縮処理工程であり、その工程において帯状布は加熱によって熱収縮を生じると主張していたのである。原告が被告らのこの主張を援用していたことはいうまでもない。

右に指摘した被告らの主張は、被告ら実施の製法が本件発明の技術的範囲に属することを請求の原因とする本件訴訟においては、自己に不利益な事実の陳述であって、「自白」である。甲五回答書における陳述は裁判外の自白であるが、右準備書面(一)及び(二)における各陳述は正に裁判上の自白である。裁判上の自白が自白者によって自由に取消され、撤回されることの許されないことは明らかである。被告らが平成二年二月一四日付準備書面(四)において従来の右陳述を突如一転して、帯状布は加熱炉内において伸張して仕上げられるとの主張に変更したのは、被告らが従来通りの主張を続ける限り本件特許権侵害を免れ得ないと考えたからであって、準備書面(四)における主張は本件特許権に抵触しないとの結論を引出すための苦肉の策に他ならない。

したがって、本件訴訟においては、被告らの製法は加熱炉において帯状布に熱収縮処理を施しているということを前提に判断されなければならない。

【被告らの主張】

1 被告らは、原告主張のイ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造していない。すなわち、被告らの製造方法においては、加熱炉の出口部引出速度は入口部供給速度に比較して大ならしめて移送し、加熱炉内で帯状布をプリーなテンション状態で熱処理している。加熱炉内で帯状布は長手方向に伸ばされるように引っ張られた状態で移送されるため、熱収縮されることはない。

フリーなテンション状態とは、弛緩状態又は無緊張状態を意味するものではなく、基準となるテンションより小のテンションとなった場合(弛緩状態に近づいた場合)は、基準テンションになるようテンションを増大し、逆に大のテンションとなった場合(必要以上に緊張状態になった場合)はテンションを減少させて基準テンションになるよう調節している状態を意味する。つまり、基準テンションを維持するよう、一定範囲内で自由に可変する張力を加えている状態である。そして、右の基準テンションとは予め熱処理済みの糸を使った帯状布の網目を均一にし安定した帯状布にするための適切なテンションであり、なおかつ、熱収縮処理が施されていない原告主張のB糸が熱収縮しないようなテンションである。被告ら製造方法のうち、前段階の巻取芯中間製品を得るまでの工程の概略は次のとおりである。

(一) 糸の熱収縮処理工程

連続細巾帯状布の編成に必要な糸の八〇%以上の糸は、予め加熱による収縮処理が施され済みである。商品名NC-一三〇の連続細巾帯状布の編成に用いる糸はA、B、C、Dの三種類であり、商品名NC-一五〇の連続細巾帯状布の編成に用いる糸はA、B、C、D、Eの五種類である(検乙二〇、二一)。

(二) 編成工程

編成に必要な二〇%以下の未だ熱収縮処理されていない糸を、製品完成後に熱プレスで長手方向へ弧状に湾曲させるために適切な位置に右熱処理済みの糸の配列と区別して配列し、両糸によって編機で連続細巾帯状布を編成する。連続細巾帯状布には商品名NC-一三〇と商品名NC-一五〇の二種類がある。

(三) 供給工程

編成後の帯状布を回収して供給部から引上げロールによって引上げて次工程へ供給する(検乙二四~二六)。

(四) 糊付工程

糊付浸漬槽に帯状布を浸漬通過させて糊付を行なう(検乙二四~二六)。

(五) 乾燥工程

帯状布に浸漬した糊を絞りロールで絞った後、三個の乾燥ロールに帯状布を多数回巻き回し送給しながら乾燥させる(検乙二四~二七)。

(六) 仕上工程

乾燥工程を終えた帯状布を送り込みロールで仕上用加熱炉へと送り込む

(検乙二四、二八~三二)。

加熱炉は送風機からの風がヒーターで熱せられて吐出口を経てダクトから供給され、排気口へ出るようになっていて炉内は熱風雰囲気下におかれてあり、帯状布は搬送ロールと回転制御ロールによる五段階のロールブロックを経ながらブリーなテンション状態で通過しながら仕上が行なわれるもので、帯状布は未だ熱収縮処理のされていない二〇%以下の糸が熱収縮しないように入口速度より速い速度で搬出される。炉内の帯状布は編成工程で緩く編み上がったり、きつく編み上がったりしている網目をできるだけ均一化して安定よく整理するためのフリーなテンション状態を維持しながら長くゆっくりと炉内を通過して仕上処理が行なわれものであり、糸段階で未だ熱収縮処理が済まされていない二〇%以下の糸が炉内で熱収縮してしまわないように、トータル的には炉内の入口速度よりも速い速度で引っ張り気味に帯状布を搬出させている。

(七) 回収工程

加熱炉から出た帯状布は炉内搬出速度と対応したモーターによって回転制御された巻取側ロールと、エンドレスベルト間に通して回収部へと送給し、回収される(検乙二八、二九、三三)。

(八) 巻取工程

回収後の帯状布は芯材に巻取られて巻回状態の巻取ベルト中間製品となる。

2 被告ら製造方法を、その使用に供している装置(別紙添付図面1記載)に則して説明すると、次のとおりである。

(一) 加熱炉内への入口部供給速度〔Va〕

右速度は、乾燥ロールのモーターの回転速度によって決定される。右モーターの回転速度は機構上一定速度に保たれているため、帯状布に皺、厚みの変化がなく、また帯状布と乾燥ロール、送り込みロール等でスリップがなければ加熱炉内への入口部供給速度も一定となるものではある。しかし、現実は、右の要因や編み目の伸び等により、入口部速度は微妙に変化する。(なお、引上げロール、絞りロール、送り込みロールは、回転ロールのモーターにより伝達回転されており、帯状布を移送している。)

(二) 加熱炉内での移送速度〔Vx〕

加熱炉内は、五段のロールブロックからなり、各ブロックごとのモーターの回転速度によって、各ブロックの帯状布の移送速度が決定される。しかし、この場合もモーターの回転速度がそのまま移送速度となるわけではなく、前記と同様の要因により、移送速度は微妙に変化する。

また、加熱炉内の五個のモーターの回転速度は、各基準となる速度に設定され、第一段より第二段、第二段より第三段というように、後の方ほどより速い回転速度が基準として設定されているが、帯状布にかかるテンションの強弱により各々コントロールされる。つまり、各基準の回転速度は、当該ブロックの制御機構(回転制御ロール、オモリ、ロータリー可変抵抗器等)により変動するよう制御されている。

すなわち、帯状布の加熱炉内への送り込み速度、または前段のロールブロックの移送速度が前記の要因で、急に遅くなると、当該段のロールブロックの移送速度は変化がなくても、右の送り込み速度又は前段移送速度との関係では相対的に速度が遅くなる。つまり、前が遅く後が速いという設定された基準の回転速度に基づく移送速度差よりも大きい速度差が生じる。これは、帯状布にかける基準として設定されたテンションより大のテンションがかかるということである。

以上の状態(送り込み速度又は前段の移送速度が急に遅くなる)が生じると、当該ブロックの制御機構により当該ブロックの回転速度を遅くし、もって、送り込み速度又は前段の移送速度との速度差を基準の移送速度差に調整する。その結果、基準として設定されたテンションに戻し、帯状布に常に一定範囲のテンションをかけ、熱収縮しないようにしているのである。右の制御機構の作動状況を詳細にのべると以下の通りとなる。

〔送り込みロール又は前段の移送速度が急に遅くなると〕制御ロールがオモリに抗して上昇

ロータリー可変抵抗器がオモリの上昇を検知

ロータリー可変抵抗器の電気抵抗が大となる(モーターに流れる電流が減少する)

該段階のモーターの回転速度が減少して、加熱炉内の帯状布移送速度が落ちる(基準テンションに近づく)

〔送り込みロール又は前段の移送速度が基準速度に戻ると〕回転制御ロールは通常の位置に戻る。

逆に、前記の要因で、送り込み速度又は前段の移送速度が急に早くなると、基準のテンションより小のテンションとなるが、この場合は、以上で述べたのと逆の過程を辿り、もって、基準のテンションに戻し、帯状布に常に一定範囲のテンションをかけ、熱収縮しないようにしている。

(三) 加熱炉からの出口部引出速度〔Vb〕

出口部引出速度は、巻取側ロールのモーターの回転速度によって決定される。右モーターの回転速度は加熱炉内の最終段ロールブロックのモーターの回転速度より速く設定されている。そして、加熱炉内の最終段ロールブロックの帯状布移送速度と出口部引出速度が連携するよう、加熱炉内の六番目の制御機構により、その回転速度が制御されている。そして、出口部引出速度も前記の要因により微妙に変化することは、送り込み速度、移送速度と同様である。また、制御機構により回転速度が変化する過程は、加熱炉内のモーターと同じ機構によるものである。

(四) つまり、全体的には以上の各速度の関係は次のとおりとなる。

V_a__<V_x__<V_b__

3 被告らが加熱炉内の工程において右の如きフリーなテンション状態にしている理由は、編成工程で緩く網み上がったり、逆にきつく編み上がったりしている帯状布の編み目を均一化して安定よく整理するためである。もし、加熱炉内の帯状布を弛緩状態又は無緊張状態にしたならば、熱収縮処理の施されていないBの糸が熱収縮し、帯状布は湾曲してしまうことになる。そこで、加熱炉内からの引出速度を供給速度より大に設定することで、B糸が加熱により収縮しないようにテンションを加える(引っ張る)ようにするとともに、加熱炉内での帯状布の移送速度が前記の要因により急に変化した場合でも、基準となる速度差(引出速度-供給速度)を維持できるように制御しているのである。この速度差を一定範囲で維持制御している状態を、テンションの観点から説明すると、「フリーなテンション状態」ということになるのである。

原告は、被告らの実施している工程上、加熱炉内での加熱によりA糸、B糸、C糸は熱収縮すると主張する。仮に、加熱炉内からの引出速度を供給速度より小に設定、即ち加熱炉内での帯状布を「弛緩状態又は無緊張状態」にしたならば、A糸、B糸、C糸は熱収縮するであろう。しかし、被告らの実施している実際の工程においては、加熱炉内からの引出速度を供給速度より常に大に設定し、加熱炉内ではフリーなテンション状態として常に一定のテンションをかけているのである。したがって、A糸、B糸、C糸は熱収縮しないのである。

なお、被告らの実施している工程上、「帯状布の小なる熱収縮率を有する部分」とは、熱収縮処理をした残留熱収縮率〇・五%のC糸(三菱レーヨン製ソナーテA一一〇)のみで編成されている部分ということになるが、加熱炉内からの引出速度を供給速度より常に大に設定しているから、C糸も熱収縮することはない。

4 被告ら製造方法に関して、原告指摘の、被告島田商事及び被告らの説明ないし主張に若干の変更があったのは、次のような事情があったからである。

原告主張のとおり、被告新道繊維工業はベルト芯中間製品の加工業者、被告サンロールはベルト芯巻取製品の加工業者、被告島田商事はその販売会社であるため、本訴提起前は、各被告間においてもお互いの技術内容を知らなかったし、特に被告島田商事はその業種の性格上、加工過程についての技術知識に乏しかった。そのような状況にあったとき、被告島田商事は原告から突然に警告を受けたため、急遽被告新道繊維工業から口頭の説明を受け甲第五号証の回答書を原告に送付した。被告新道繊維工業は、本件訴訟の当初の段階では、ベルト芯中間製品の加工方法を同業者である原告に開示しない方針であった。それは、右中間製品の加工工程を開示しなくても、他の構成要件、即ち加熱炉引出し以降の接着剤粉末付与工程の部分において、本件発明の構成要件を充足せず、被告ら製造方法が本件発明の技術的範囲に属さないことを立証できると考えていたからである。そして、本件訴訟の当初、被告らと被告ら訴訟代理人・輔佐人間で改めて技術検討がされなかったため、被告らの主張としても被告島田商事が先にしていた甲第五号証の回答書と同内容のものとなったのである。しかしその後、被告らは被告ら製造方法の全てを開示するように方針を変更し、被告ら訴訟代理人・輔佐人が平成二年一月二三日被告新道繊維工業において、その装置及び製造方法の説明を受け、その結果被告ら準備書面(四)において被告ら製造方法を開示したのである。したがって、準備書面(三)までの被告らの主張と準備書面(四)以降の被告らの主張では表現上異なる部分はある。右差異は前記の事情によるものであるが、ただ実質的な内容は異なっていない。

仮に、百歩譲って、原告主張のとおりの自白が成立しているときは、その自白は真実に反し錯誤に基づくものであるから、右自白を撤回する。

5 平成四年九月七日被告新道繊維工業の工場において実施された検証の際に行なわれた同被告装置の稼働方法は、同被告が通常の製品を製造する際に実施している方法であり、従来より一貫して帯状布(ベルト芯布)加工に用いている方法である。

原告は、(1) 被告装置の巻取側ロールは改良されているが、帯状布を伸張するのならば巻取側ロールは改良する必要がない旨、(2) 帯状布を伸張するだけであれば、簡易な装置でよく被告装置のような複雑な機構は必要がない旨、(3) 被告ら製造方法のような糸の段階で熱収縮加工を施すのは、経費がかかり非合理的な方法である旨主張する。しかしながら、右原告主張は根拠のない主張である。

被告装置の可変抵抗器による変速モーター、五段階の加熱炉搬送ロールも、帯状布を伸張させ、かつ、徐々に加熱することで網目を均一化する熱セットを行なうために必要な機構であって、単に伸張させるだけの機構ではない。

逆に、本件発明のように「加熱装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せた熱収縮処理を施」すことの方が、複雑・精密な機構を必要とし、その開発・実施等に経費を要するのである。即ち、入口部供給速度と出口部引出速度の差異は、帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せるというが、熱収縮率は一種類の糸でも不変の絶対値ではなく部分部分で異なるし、気温等で変化する。更に、帯状布として編成されれば、そのうえバラツキが大きくなる。それにもかかわらず、一種類の糸ではなく、数種類の糸が編成された帯状布のうちの、小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せるように前記速度差を設けるというのが本件発明である。右のような変動する小なる熱収縮率を有する部分の収縮率の検知手段、その自動調整機構の構成を採用しようとすれば、被告装置では不可能である。被告装置は、入口部供給速度より出口部引出速度を大にして、帯状布を引き伸ばすようにしているからこそ、前記のような構成で十分なのである。

なお、宮村証言(証人調書21丁表~23丁裏)によれば、原告の帯状布の製造においても、小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合せるように速度差を設けて帯状布を加工してはいない、換言すれば、本件発明を実施していないと推定される。

元々、本件特許請求の範囲にいう、「該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し」なる要件は、技術的願望ないし技術的課題にすぎず、小なる熱収縮率に合せた熱収縮処理を施すためには、如何なる具体的技術手段を講じればよいかについて、本件特許出願願書添付明細書のどこにも記載されていないのである。僅かに、発明の詳細な説明中に、「加熱装置10は入口に送給される帯状布の給布速度と出口部における引出速度との間に差が設けられており、前者が後者より大で帯状布は加熱装置10内において弛緩状態又は無緊張下で熱処理がなされる。この弛緩の割合は、入口部供給ロール9と引出しロール11とによって決められ、好ましい割合としては帯状布における最も小なる熱収縮率に合せてこれに適合するように選定される」(公報6欄43行~7欄7行)との記載のみである。しかし、この記載には技術上以下に示す大きな疑問がある。

(1) 入口部供給ロール9と引出しロールー1の回転速度を帯状布における最も小なる熱収縮率部分の収縮率に合せてこれに適合するよう選定するとのことであるが、その収縮率は一本の糸においても不変の絶対値ではなく、部分部分で異なると共に、気候や工場の雰囲気条件によっても変化するし、編成されれば尚更バラツキが大きくなる。そういう収縮率の変化を自動的に検知し、調節し得る機構が開示されていなければ、本件発明はたとえ当業者であっても実施することは不可能である。

(2) 入口部供給ロール9と引出しロール11の回転速度を帯状布における最も小なる熱収縮率部分の収縮率に正確に合せなければ、種々の不都合が生じることになる。即ち、もし最も小なる熱収縮率部分の収縮率よりも大きな割合で両ロール9、11の回転速度が決定されると、最も小なる熱収縮率を有する糸が十分収縮し得ず帯状布全体の残留収縮性が大きくなり、寸法安定性を阻害する結果となる。逆に、小さな割合で両ロール9、11の回転速度が決定されると、両ロール9、11間の帯状布の弛緩の割合が徐々に大きくなり、やがては帯状布Aは加熱装置10のヒーターに直接接触し、炎上することとなる。

以上の技術上の問題から、「帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理」に関する具体的技術は、明細書に開示されているとはいえないし、実際上、そのような微妙な調節を必要とする難しい熱処理は不可能といわなければならない。

被告らは、本件発明のように、熱収縮率の異なる糸を編成前において予め熱収縮処理を施すことなく編成し、熱収縮処理工程で潜在湾曲性を持たせながら真っ直ぐで、かつ、寸法安定性に優れたベルト芯中間製品を得ることは不可能であるとの前提に立って、帯状布の編成前に糸の段階で八〇%以上の糸に熱収縮処理を施し、二〇%以下の未熱収縮糸を仕上工程で収縮しないように張力をかけ、しかも五段階ものロールブロックを経ながら十分な仕上をすることにより帯状布を十分セットし、寸法安定性を高めているのである。しかし、帯状布に加工中不測の力が加わったり、弛緩したりした際に一定の範囲内で自動的に調節できるようフリーなテンションをかけているので、帯状布は編組織が引張られて若干伸びることとなる。この若干の伸びに対応させるためにも、出口部引出速度の方が入口部供給速度より速く搬出されるのである。

6 被告ら製品は原告製品よりも寸法安定性に優れている。その理由は、被告ら製造方法においては、(1) 帯状布の編成前に八〇%以上の糸に熱収縮処理を施しておき、二〇%以下の未熱収縮糸が仕上工程で収縮しないように適度なテンションがかかるよう一定範囲内のプリーなテンション状態で搬出するようにしたことと、(2) 五段階のロールブロックを通して相当長い距離と時間及び適度のテンションと熱をかけて仕上げることにより帯状布に対するセット効果を高めているからである(本件訴訟の当初の段階では、被告新道繊維工業はこの技術をノウハウとして秘匿し公開しない方針であった)。

二 争点2(イ号・ロ号方法は本件発明の構成要件〈4〉を具備するか)

イ号・ロ号方法の、「加熱炉を通して得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で……ロールコーターに導き、……溶融状のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗付し、その後、……ガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を満遍なく浸透させ」ることが、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて、(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、(ハ) 再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融し」に該当するか。これと均等といえるか。

【原告の主張】

1 工程結合からなる方法の特許発明について、その各工程を異なる者が行なった場合でも、その特許権の侵害を構成するのである。判例(大阪地方裁判所昭和三六年五月四日判決・下民集一二巻五号九三七頁、判例タイムズ一一九号四一頁)も、「他人の特許方法の一部分の実施行為が他の者の実施行為とあいまって全体として他人の特許方法を実施する場合に該当するとき例えば一部の工程を他に請負わせ、これに自ら他の工程を加えて全工程を実施する場合、または数人が工程の分担を定め結局共同して全工程を実施する場合には、前者は注文者が自ら全工程を実施するのと異ならず後者は数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならないのであるから、いずれも特許権の侵害行為を構成するといえるであろう」と説示している。

本件事案においては、被告新道繊維工業が製造した「巻取ベルト芯中間製品」は全て被告サンロールに送られて同被告により「ベルト芯巻取製品」に仕上げられ、該製品の全ては、被告島田商事に納入されて販売されるという関係にあり、しかもその全ては被告島田商事の立案にかかる企画に基づいて実行されているのであるから、正に右判決のいう「数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならない」場合に該当し、被告ら全員が本件特許権侵害の責を負わねばならない。

次に、被告新道繊維工業が、加熱炉の出口部から搬出される帯状布を、一旦巻取って「巻取ベルト芯中間製品」とし、それが被告サンロールに送られ、同被告がこれに接着剤塗布を施すために、「巻取ベルト芯中間製品」を接着剤塗布工程に導くに当たって、被告新道繊維工業が帯状布を加熱炉から引出していた引出速度とは「異なる遅い速度」で、帯状布を移送させているということも、イ号・ロ号方法が本件発明の構成要件〈4〉の「次いで(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて(爾後の工程を行なうこと)」を欠如することとなるものではない。何故ならば、特許請求の範囲にいう「前記出口部引出部引出速度で移送させて」との要件は、移送速度を変える必要はないということを意味するに止まり、特許請求の範囲に記載されている要件以外の付加的要件を加えるような場合、その必要上速度を変更しても、本件発明の目的及び作用効果に何らの影響も与えないからである。

したがって、イ号・ロ号方法の、「加熱炉を通して得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において(爾後の工程を行なうこと)」は、本件発明の構成要件〈4〉の、「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて(爾後の工程を行なうこと)」に該当するというべきである。

2 ホットメルト接着剤を塗布するイ号・ロ号方法に関する記載を、本件特許請求の範囲における接着剤粉末を用いる接着剤の塗布に関する記載に倣って記述すると次のとおりになる。

「帯状布の一面に溶融状態のホットメルト接着剤をロールコーターにより圧着塗布し、再び加熱装置(ガスバーナー)を通して該接着剤を溶融した後加圧冷却を行なって帯状布に接着剤を圧着し、爾後冷却過程を経て巻取る」

右記載を本件特許請求の範囲中の対応部分と対比すると、相違点は、本件発明においては、接着剤として粉末接着剤を用いるので、それが帯状布の表面に付与されたときは粉末であり、帯状布が加熱装置を通されることによって溶融するのに対し、イ号・ロ号方法においてはホットメルト接着剤が用いられるので、予め溶融状態とした後に帯状布の表面に塗布されるという、粉末接着剤とホットメルト接着剤について本件特許出願前から公知の「用法の差異」のみであるから、ホットメルト接着剤は粉末接着剤と本件発明の接着剤塗布工程において均等物として用いられるものであると認められるべきである。

本件特許出願願書添付明細書の発明の詳細な説明には、「前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。」(8欄2行~4行)と記載した上で、これに続けて、「付与の手段は公知の各手段が任意に使用可能であるが、最も普通の付与としては散布手段が適用される。」(8欄2行~4行)と記載している。ここにいう「付与」が特許請求の範囲の「樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し」という要件を指していることは該文意から明らかであって、右説明は、この要件を具体化する手段としては、接着剤粉末の散布付与という特許請求の範囲に記載された手段の他に、「公知の各手段」が用いられ、必ずしも特許請求の範囲の文言どおりである必要はないこと、換言すれば、公知の手段である限り用い得ることを記載したものである。

ホットメルト接着剤は本件特許出願前から種々の分野で用いられていた(甲、一〇)。また、種々の繊維加工にもホットメルト接着剤が用いられており、ホットメルト接着剤を用いた「接着芯地」も知られていた(甲一一)。更にまた、布類の積層方法としてホットメルト接着剤を用いる方法が知られており(甲一一)、かかる接着剤の塗布方法として種々のロール方式も知られており(甲一一)、ロール方式の一種として「グラビアロールコーティング」、すなわち、イ号・ロ号方法の接着剤塗布工程に用いられているのと同様、エンボスローラーを用いる方式も知られていた(甲一一~一二)。

以上の諸事実に鑑みると、イ号・ロ号方法におけるロールコーターを用いてホットメルト接着剤を帯状布の一面に塗布する被告らの接着剤塗布工程は、本件特許出願当時の技術水準において、特許請求の範囲に記載の粉末接着剤の付与工程と均等の手段というべきである。

【被告らの主張】

1 本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを一連の好適な工程として時間的にも装置的(場所的)にも一連のものとしたことに特徴を有する発明であり、したがって、特許請求の範囲の「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との文言も、文字どおり、時間的にも装置的にも、熱収縮工程の出口部引出速度で接着剤塗布工程に移行することと解されなければならない。右の趣旨であるからこそ「一連の好適な工程が提供でき」るのであるし、「連続的なベルト芯布の処理が可能」となるのである。

以上の理は、本件特許出願願書添付明細書発明の詳細な説明における、「連続して製造する場合に帯状布に偏向が生じ、巻取り、その他に支障が生ずることになる。」(3欄37~39行)、「又、本発明は上記のベルト芯布を得るための一連の好適な工程を提供し」(4欄13~14行)、「以上の工程を経て、なお潜在収縮を保有する帯状布は連続ロール状に巻取り、保管又は運搬して使用地に向けられるが、その前に予め接着剤粉末、例えば熱感応性樹脂粉末を付与することが行われる。従って、前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。」(7欄38行~8欄1行)、「これらロールー3、14は通常引出しロール11と同一速度に保持され、同調的に帯状布Aを移行させるようにする。」(8欄15~17行)、「又、本発明は上記の如き方法により連続的なベルト芯布の処理が可能であり」(10欄33~34行)との記載並びに特許請求の範囲の「帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、……該接着剤粉末を溶融した後」との記載及びそれに対応する「熱感応性樹脂粉末を付与する」との記載からも明らかである。

本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連のものとしたからこそ、加熱された状態の帯状布に接着剤粉末を塗布することが可能なのである。もし帯状布が加熱されていないとすると、粉末の接着剤は塗布することが不能で飛散してしまうからである。以上を一言で言えば、本件発明は、連続工程とすることで熱収縮工程の余熱を利用して、接着剤粉末を塗布することに特徴を有するものである。

2 これに対し、イ号・ロ号方法は、加熱処理工程をした工場とは異なる工場において、加熱炉からの引出速度より遅い速度で、しかも常温下で接着剤塗布工程を行うものである。したがって、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで(イ) 前記出口部引出速度で移送させて」との要件を充足しない。

原告は、右の点に関し、「数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならない」旨、及び「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との意味は、「移送速度を変える必要はないということを意味する」旨主張する。しかしながら、特許発明の工程が時間的、装置的に分断可能な場合ならばともかく、本件発明のように、加熱処理工程と接着剤塗布工程とが時間的、装置的にも一連の工程、即ち分断不能としたことに特徴を有する発明の場合は、右原告の主張は成り立たない。また、「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との意味が「移送速度を変える必要はないということを意味する」と解することは、前記特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載から確定される、本件発明の技術的範囲を不当に拡大する解釈であり、不当であることは明らかである。

3 原告は、被告ら実施の接着剤塗布工程における「ロール・コーター法」は、本件発明の「接着剤粉末散布法」と均等の手段である旨主張する。しかしながら、本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の好適な工程としたことに特徴を有する発明であるからこそ、接着剤塗布工程に接着剤粉末を用いることができたものである。即ち、加熱された状態の帯状布であるから接着剤粉末を散布することが可能であるのに対し、ロール・コーター法では帯状布に余熱が残っていると溶融樹脂が帯状布内部にまで浸透してしまい、接着剤を適度に帯状布の表面に転写圧着することが不能となるのである。つまり、加熱された帯状布の場合は接着剤粉末散布法が適切な方法であり、ロール・コーター法は適切ではないが、逆に、常温下ではロール・コーター法が適切で、接着剤粉末散布法を用いることは粉末が飛散する関係で適切ではない。以上で明らかなとおり、接着剤粉末散布法とロール・コーター法は相互に互換性を有しないものである以上、ロール・コーター法をもって接着剤粉末散布法の均等手段ということはできない。

第四 争点に対する判断

一 (加熱炉における長手方向での熱収縮の有無)

原告は、被告らが、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くしている、イ号方法及びロ号方法を用いてベルト芯巻取製品を製造している旨主張するが、右原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙一の1ないし3の各1、2、二の1ないし3の各1、2、三、四、検乙一ないし三四、被告新道繊維工業工場内設置装置の検証の結果)によると、被告ら製造方法においては、被告ら主張のとおり、未だ熱収縮されていない糸が加熱炉内で熱収縮しないように、連続細巾帯状布が入口部の供給速度より速い引出速度で出口部より搬出されているものと認められる。したがって、被告ら製造方法が本件発明の構成要件〈3〉の「加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施すこと」を具備しないことは明らかである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告ら製造方法は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

なお、被告島田商事の原告宛回答書(甲五)中に原告指摘の記載があり、被告らの準備書面中に原告指摘の記載があることは被告らも認めるところであるが、同回答書及び準備書面の右指摘部分を含む前後の記載全体からみると、同回答書及び準備書面において、被告島田商事ないし被告らの実施している製造方法が、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くするという、本件発明の構成要件〈3〉を具備することを否定していることは明らかであり、また、右原告指摘の記載も、その字句文言どおりであれば、熱収縮率を有する原料糸の全てが熱収縮してしまい潜在湾曲性を有しないものになるのであるから、被告らが、加熱炉の出口部引出速度を入口部供給速度に比較して遅くするという、本件発明の構成要件〈3〉を具備する方法で潜在湾曲性を有するベルト芯布を製造していることを認め(自白し)ていた旨の原告主張は採用できない。

二(イ号・ロ号方法は本件発明の構成要件〈4〉を具備するか)

1 本件発明の構成要件〈4〉について

(一) 本件特許請求の範囲に、「……熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出部引出速度で移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、加圧冷却を行って帯状布に接着剤を圧着し」とあり、熱収縮処理工程に引続いて接着剤付与工程を設けること、加熱炉出口部引出部引出速度で移送させて接着剤を付与すること、付与する接着剤は樹脂粉末等の接着剤粉末であることが明記されている上、発明の詳細な説明中にも、「連続して製造する場合に帯状布に偏向が生じ、巻取り、その他に支障が生ずることになる。」(3欄37~39行)、「又、本発明は上記のベルト芯布を得るための一連の好適な工程を提供し」(4欄13~14行)、「以上の工程を経て、なお潜在収縮を保有する帯状布は連続ロール状に巻取り、保管又は運搬して使用地に向けられるが、その前に予め接着剤粉末、例えば熱感応性樹脂粉末を付与することが行われる。従って、前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。」(7欄38行~8欄1行)、「これらロール13、14は通常引出しロール11と同一速度に保持され、同調的に帯状布Aを移行させるようにする。」(8欄15~17行)、「又、本発明は上記の如き方法により連続的なベルト芯布の処理が可能であり」(10欄33~34行)と記載されている。

(二) 本件特許請求の範囲記載の樹脂粉末等の接着剤粉末の散布による接着剤の付与方法も、イ号・ロ号方法で使用されているホットメルト接着剤の塗付による接着剤の付与方法も、いずれも本件特許出願前から種々の分野で用いられており、種々の繊維加工にもホットメルト接着剤が用いられ、ホットメルト接着剤を用いた「接着芯地」も知られていたし、更にまた、布類の積層方法としてホットメルト接着剤を用いる方法が知られており、接着剤の塗布方法として種々のロール方式、ロール方式の一種としての「グラビアロールコーティング」(イ号・ロ号方法の接着剤塗布工程に用いられているもの)も知られていた(甲一〇~一三、弁論の全趣旨)にもかかわらず、本件発明では樹脂粉末等の接着剤粉末を選択しているのは、本件発明が、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の連続工程とすることで、熱収縮工程の残熱を利用して、加熱炉で加熱された状態の帯状布に接着剤粉末を塗布することを特徴の一つとしていると考えるのが合理的である。一五〇~一二〇℃(公報7欄23~24行)の熱収縮工程の残熱を利用して、加熱炉で加熱された状態の帯状布に接着剤を付与する場合、付与する接着剤としては接着剤粉末が適しており、ホットメルト接着剤は、後記のとおり溶融樹脂が帯状布内部にまで浸透してしまうことから、不適であると認められる。特許請求の範囲にも、帯状布の一面に「樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し」た後、「再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融し」と明記されている。

(三) 以上の諸点を併せ考えると、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで、(イ) 前記出口部引出部引出速度で移送させて」は、特許請求の範囲の記載文言のとおり、時間的にも装置的にも、熱収縮工程の出口部引出速度で接着剤塗布工程に移行することであり、同構成要件の「(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、」は、特許請求の範囲の記載文言のとおり、(熱収縮工程の残熱を利用して)樹脂粉末等の接着剤粉末を付与することであると解さざるを得ない。

2 イ号・ロ号方法との対比

これに対し、イ号・ロ号方法は、加熱処理工程をした工場とは異なる工場において、加熱炉からの引出速度より遅い速度で、しかも常温下で樹脂粉末等の接着剤粉末とは異なる溶融状態のホットメルト接着剤を塗布するものであるから、本件発明の構成要件〈4〉の「次いで(イ) 前記出口部引出速度で移送させて、(ロ) 帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、」との要件を充足しないというべきである。したがって、この点においても、被告ら製造方法は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

3 原告の主張について

原告は、加熱処理工程をした工場とは異なる工場において接着剤付与工程を実施することは、数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならない旨、及び「次いで前記出口部引出速度で移送させて」との意味は、移送速度を変える必要はないということを意味するに止まる旨主張するが、特許発明の工程が時間的、装置的に分断可能な場合ならばともかく、本件発明は、加熱処理工程と接着剤塗布工程とを時間的、装置的にも一連の工程とした(分断しないで連続工程とした)ことをも一つの特徴にする発明と認められるから、右原告主張は到底採用できない。

また、原告は、イ号・ロ号方法の接着剤塗布工程における、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法は、本件発明の、接着剤粉末を散布する方法と均等の手段である旨主張する。しかしながら、本件発明は、熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の好適な工程としたことをも一つの特徴とする発明であると認められること、(熱収縮工程の残熱を利用して)加熱された状態の帯状布であるからこそ接着剤粉末を散布する方法が適用可能であるのに対し、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法をここに用いれば、帯状布に加熱処理工程の熱が残っているため、溶融樹脂が帯状布内部にまで浸透してしまい、接着剤を適度に帯状布の表面に転写圧着することが困難であると認められること、加熱されている帯状布の場合は、接着剤粉末を散布する方法が適切な方法であり、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法は適切ではないが、逆に、加熱されていない帯状布の場合では、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法が適切で、接着剤粉末を散布する方法を用いることは粉末が飛散する関係で適切ではないと認められること、以上を併せ考えると、(熱収縮工程の残熱を利用して)熱収縮工程と接着剤塗布工程とを、時間的にも装置的にも一連の好適な工程とした本件発明において、ロール・コーターにより溶融状態のホットメルト接着剤を塗布する方法が接着剤粉末を散布する方法と置換可能であると考えることはできず、したがって、これを均等手段ということはできない。

大阪地方裁判所第二一民事部

裁判長裁判官 庵前重和

裁判官 小澤一郎

裁判官 阿多麻子

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭55-27163

〈51〉Int.Cl.3A 41 D 27/06 識別記号 庁内整理番号 7030-3B 〈24〉〈44〉公告 昭和55年(1980)7月18日

発明の数 2

〈54〉潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法

〈21〉特願 昭52-20537

〈22〉出願 昭52(1977)2月25日

公開 昭53-106243

〈43〉昭53(1978)9月16日

〈72〉発明者 道前伸洋

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈72〉発明者 道前隆三

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈71〉出願人 道前伸洋

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈71〉出願人 道前隆三

広島県芦品郡新市町大字新市1219番地

〈74〉代理人 弁理士 宮本泰一

〈57〉特許請求の範囲

1 巾方向に一側より順次少くとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有する部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出部引出速度で移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して該接着剤粉末を溶融した後、加圧冷却を行つて帯状布に接着剤を圧着し、爾後冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

2 帯状布が所要細巾一杯に振つた合繊モノフイラメント糸層面に他の合繊フイラメント糸からなる多数の並列糸条の各糸を隣接糸列間又は1列飛び以上に各列より同方向に横に振つて形成した横振り層として配層し、更にそれ等両糸層に更に長手方向に合繊糸を挿入して前記各列毎に連続せる縦編目ステツチで編止めした細巾編布であつて巾方向に一側より順次大なる熱収縮率を有する部分と小なる熱収縮率を有する部分又は大、中、小各熱収縮率を有する部分とが分布された編布である特許請求の範囲第1項記載の潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

3 帯状布の巾方向の熱収縮率の変化が熱収縮率の大なる糸によつて作られるステツチによる熱収縮率の差によつて生起される特許請求の範囲第1項又は第2項記載の潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

4 帯状布の巾方向の熱収縮率の変化が帯状布に施した熱収縮率の大なる下糸使用のミシン掛けによる熱収縮率の差によつて生起される特許請求の範囲第1項又は第2項記載の潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

5 巾方向に一側より順次、少くとも大なる熱収縮率を有する部分と、小なる熱収縮率を有せる部分とが分布された連続帯状布Aを糊付、乾燥した後、加熱装置に導き、該装置内を入口部供給速度に比較し、出口部引出速度を小ならしめた移送下で前記帯状布の小なる熱収縮率を有する部分の収縮率に合わせた熱収縮処理を施し、次いで前記出口部引出速度を保持して移送させて、帯状布の一面に樹脂粉末等の接着剤粉末を付与し、再び加熱装置を通して、該接着剤粉末を溶融した後、外側面に接着剤を付与してなる支持布をその非接着剤付与面を対合面として前記帯状布と重合し、加圧冷却により両布を接合すると共に、支持布の外側接着剤面を圧着し爾後、冷却過程を経て巻取ることを特徴とする潜在歪曲性を有するベルト芯布の製造法。

発明の詳細な説明

本発明はズボン、スカート等の腰裏芯地に用いる帯状布の処理方法に関するものである。

ズボン、スカート等の腰裏芯地には、従来織布、編布が一般に使用されているが、腰部の形態に合致すべく使用状態によつて扇形状に展開し、かつ立体的に反曲せる膨みを有していることが好ましいとされている。そのため基布一側縁を強く伸長しながらプレス処理を施し、基布を扇形状に変形させるとが、ベルト製作に際しいせ縫、いせプレスをするとかして扇形状を得ることが従来より行われて来た。

しかしながら、これらの方法は、基布自体に無理を生じ、裁断のロス部分が生じて作業的にも煩雑な手数を要し、非能率的であると共に理想的な彎曲を得ることが難かしい外、折角の扇形状もすぐに元の復元する欠点があつた。

近時、これを改良するものとして収縮率が夫々異なる糸を用いて帯状布の耳部における収縮率を異ならしめることが行われている。この帯状布は従来の芯地に比較し、基布自体の無理がなく、又簡単に所要の彎曲形状が得られる点で優れたものであるが、糸扱いが難かしく、収縮度合の調節が困難であることを免れないのみならず、整理加工妨縮加工並びに接着樹脂付与の際の加熱によりベルト布自体が彎曲を起し、重合するベルト表布を彎曲裁断しなければならない複雑な加工工程を必要とする欠点を有している。

本発明者は上記の如き実状に鑑み、収縮度合の調節を容易とし、腰部の形態に簡単に合致させ得る帯状布を提供すべく種々検討を重ね、巾方向に一側より順次大なる収縮率を有する部分から小なる収縮率を有する部分へ移行分布する帯状布を開発するに至つた。

しかしながら、かゝる収縮率の移行分布を有する帯状布の製造の困難さはその製作途中において熱処理により収縮が発現することであり、かゝる発現により扇形状を呈しては折角の帯状布のベルト芯としての性能が失われるのみならず、連続して製造する場合に帯状布に偏向が生じ、巻取り、その他に支障を生ずることになる。

ベルト芯布は爾後の工程において腰部表布に接着されて使用されるものであり、最も好ましい状態としては表布に接着し、ズボン、スカート等の腰部に取り付けられるまではその操作が容易であること、そして表布と共にプレス処理が施される場合には腰部形状に合致した扇形反曲形状が得られることである。

従つて、前記の如き収縮率の移行分布を有する帯状布において、その処理途中において爾後における潜在収縮による歪曲性を保持しつつ、しかも通常の帯状布と同様真直な状態を維持して処理がなされることは極めて好ましいことである。

本発明の第1の目的は、かゝる要望に対応し、収縮率の移行分布を有する帯状布であつても真直な状態を維持し、その爾後の処理が円滑に行われ、取扱いにおいて何等の支障を生じないベルト芯布の製造方法を提供することである。

又、本発明は上記のベルト芯布を得るための一連の好適な工程を提供し、これにより使用時において腰部の形態を良好ならしめる潜在的扇形反曲形状を有する帯状布を提供することである。

又、本発明の副次的な目的は、ベルト芯布を表布に接着して熱処理を施し、潜在的収縮を発現させ、ズボン、スカート等のベルト部分に良好な彎曲を付与せしめることである。

しかして上記の諸目的を達成する本発明方法の特徴は、巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する連続帯状布を糊付後、加熱ロールに少くとも1回以上捲回して乾燥を行い、次いで加熱装置内を入口部供給速度に比較し、出口部引出速度を小ならしめて帯状布の最小収縮率を有する部分の収縮率に合せて熱処理を施し、該収縮率の最小部分を熱安定せしめた後、帯状布一面に接着剤粉末を付着せしめ、爾後、前記出口部引出速度を保持したまゝ真直な状態を維持して接着剤粉末の溶融、水冷ロールによる圧着及び冷却を行い巻取ることによつて得られる。

又本発明は前記方法において接着剤粉末の溶融後に、外側面に接着剤が付与された不織布よりなる支持布を重合し、両布を共に爾後の水冷ロールによる加圧・冷却させ巻取ることを特徴とする。

以下、本発明の具体的な内容を添付図面を参照しつつ説明する。

第1図は本発明ベルト芯布の製造工程の1例を図示したものであり、ベルト芯布の基布をなす巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する帯状布Aを連続長尺状態をなしてガイドロール3を通し糊付槽2内の糊付ロール1並びに第2のガイドロール4を経て加熱ロール5、6、7、8よりなる乾燥ロールにより乾燥を行い、次いで加熱部供給ロール9により加熱装置10内に送り込み、引出しロール11を経て接着剤粉末容器12より接着剤粉末を散布付与せしめ、その後更に第2の加熱装置10’において接着剤粉末を溶融せしめた後、水冷ロール13により溶融接着剤を帯状布Aに圧着し、その後冷却ロール14を通つてロール15上に巻取る工程が示されている。

ベルト芯布の基布をなす巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する帯状布Aは、1例として第2図に図示する如く所要細巾の編巾一杯に振つた合繊モノフイラメント糸21の層の一面又は両面に他の合繊フイラメント糸22の多数からなる並列糸条の各列の糸を夫々、編成時、隣接針間隔間、又は1針飛び以上の間隔で各糸列より同方向に横に振つて形成した横振り層を配層し、それら両糸層に更に必要に応じ長手方向に合繊フイラメント24を挿入して各ゲージ毎に連続せる縦編目ステツチ23で編止めし、一体化せしめた連続長尺の細巾編布であつて、ステツチ23或いは挿入フイラメント24に一側より巾方向に複数に区分して大なる熱収縮率を有する糸と小なる熱収縮率を有する糸を使用し、或いは大、中、小の熱収縮率を有する糸を順次使用して、若しくは収縮性糸条を下糸とするミシン掛けを行い、そのミシン掛け条数又は収縮性糸条の太さを耳部中央部等において変えることによつて巾方向に一側より順次収縮率の移行分布を有する如く形成した帯状布である。なお、編目ステツチ糸と挿入フイラメントの双方を熱収縮率の異なる糸の併用としてもよく、又、挿入糸の番手を変えてもよく、これらによつて収縮率の移行分布を有する如く形成することが出来る。

細巾編布を構成するフイラメント21、22、24としては、ナイロン、ポリエステル繊維等の合成繊維が素材として使用されるものであり、特に合繊フイラメント22、24は合繊モノフイラメント糸21よりも熱収縮率の大きいナイロン、ポリエステル繊維等の合成繊維が好ましく、さらに片面を接着用とする時はナイロン12、又はポリエチレンと塩化ビニール系の重合体等の低温溶融糸を使用することが出来る。しかし、本発明の如く接着剤とする別途の接着剤粉末を付与する場合は使用する必要はない。

一方、ステツチ23により収縮性を付与する場合には、ステツチ形成糸としてナイロン12、塩化ビニール系繊維等を用いる。又、挿入糸24の場合にも同様な糸の使用が適用されるが、通常は120℃位までに高収縮を起す塩化ビニール系合成繊維を主として使用する。なおこの場合の塩化ビニール系繊維は、塩化ビニール重合体繊維の外、塩化ビニールと塩化ビニリデンとの共重合体繊維、ならびにそれら繊維と他の繊維との混紡からなる混紡糸等の全ての繊維糸を包含する。

又、熱収縮率を異にするフイラメントは糸の種類を変えてもよく、又は同一種類の糸の場合には延伸時における延伸倍率を変え、収縮率を異ならしめたものでもよい。

何れの場合においてもベルト製作時において、ベルト上縁と下緑との収縮差は4cm巾で5%内外が好適であり、人体の腰部に最もよく適合させることが出来る。

又上記帯状布Aの糊付は、帯状布Aに対し整形加工を容異ならしめると共に、布自体の強度、腰を増すものであり、公知の樹脂水溶液が適用される。

湖付された帯状布の乾燥は、引続き加熱ロール5、6、7、8により行われるが、ロール5、6及びロール7、8を各1組として少くとも1回以上各組ロール5、6及び7、8に捲回することにより行われる。

この場合、加熱ロールのロール温度は帯状布の構成繊維素材の種類により若干異なるが、ナイロン又はポリエステル繊維が使用されている場合には約160~170℃位である。なお、図では2組の加熱ロールを通して乾燥しているが、素材に応じ1組又は3組以上とすることも差支えない。

又、複数組の場合、各組における加熱温度は同一温度でもよく、順次異なる温度でもよく、更にロールを配した加熱室としてもよい。

乾燥された帯状布は次の加熱装置10による熱処理工程に送られるが、この工程は本発明方法により作られるベルト芯布の性能を決める上に極めて重要な役割を有している。即ち、この工程において帯状布Aを構成する繊維素材の熱安定化、潜在収縮の残留等が決定づけられる。

加熱装置10は入口に送給される帯状布の給布速度と出口部における引出速度との間に差が設けられており、前者が後者より大で帯状布は加熱装置10内において弛緩状態又は無緊張下で熱処理がなされる。この弛緩の割合は、入口部供給ロール9と引出しロール11とによつて決められ、好ましい割合としては帯状布における最も小なる熱収縮率部分の収縮率に合せてこれに適合するように選定される。

従つて熱処理が施された帯状布においては、その最も小なる熱収縮率部分は最大限に収縮され、熱による安定化が進んで爾後の熱処理、例えばプレス処理においてもそれ以上の収縮を起すことがないが、大なる熱収縮率部分はある程度収縮が起るとしても熱安定化が完全に進まず、爾後の熱処理によつて尚、収縮を起し得る潜在能を保有している。

しかし、帯状布自体の外観においては、合繊モノフイラメント糸層21と合繊フイラメント糸層22の収縮率に差があれば、この収縮差により巾方向にカールするが、長手方向においては収縮度の相違による捩れ、反り等の変形は全く起つていない。

上記の如き熱処理は、その性格上、熱安定化可能な温度であることが必要であり、通常150℃位に保持される。爾後の熱処理は120~140℃であり、熱安定化した部分は収縮することはない。

今、ナイロン及びポリエステル繊維糸を使用して熱収縮率の異なる各部分のステツチを行つた場合には、ポリエステル繊維糸は繊維性能から熱安定化が進み爾後のプレス処理により収縮を起さないが、ナイロンは熱安定化が進まず尚、残留収縮を保有した状態であるためプレス処理において収縮を起すことになる。このことは帯状布Aの構成フイラメントがポリエステル繊維からなる場合、或いはナイロンからなる場合においてステツチの糸を適宜ナイロン、又はポリエステル繊維糸とした時においても同様である。

以上の工程を経て、なお潜在収縮を保有する帯状布は連続ロール状に巻取り、保管又は運搬して使用地に向けられるが、その前に予め接着剤粉末、例えば熱感応性樹脂粉末を付与することが行われる。従つて、前記加熱処理を経た帯状布に対し、引出しロール11通過後において適宜配置された接着剤容器により樹脂粉末が帯状布の一面上に付与される。

付与の手段は公知の各手段が任意に使用可能であるが、最も普通の付与としては散布手段が適用される。

かくして接着剤が付与された帯状布は、次に配置された第2の加熱装置10’を通ることによりその一面に付与された接着剤粉末を溶融し、水冷ロール13により溶融された樹脂粉末を帯状布面に圧着させる。この場合、ロール13は水冷であり、ロール面に接着剤が付着することはない。

水冷ロール13を通過した帯状布Aはロール13から冷却ロール14の間で冷却された後、ロール巻に形成される。なお、更に冷却が必要であれば、水冷ロール13と冷却ロール14との間に送風し、冷却してもよい。又、これらロール13、14は通常引出しロール11と同一速度に保持され、同調的に帯状布Aを移行させるようにする。そしてこの間、帯状布がその熱収縮大なる部分において残留収縮を有しているに拘らず真直な状態で移行することは重要なことである。

以上のようにして得られたロール状に巻かれた帯状布15は縫製によるズボン、スカート等の製作に供され、表布に接着してプレス熱処理を施し、潜在された収縮が発現される。

次に、本発明帯状布における収縮率の移行分布を作る構成について例示すれば、帯状布の組織的収縮低抗とベルト布の収縮抵抗を加味すると、相当の強力な収縮力が必要であり、生産管理上からも、又熱管理上からしても最も好ましい構成として挙げられるものは、編目ステツチ糸にポリエステルフイラメント、挿入フイラメント糸に収縮率の大きい塩化ビニール系繊維とポリエステル系繊維等の混紡糸、例えばビンデン(登録商標)を用いた帯状布である。これを更に詳述すると、巾を3区分し、挿入糸を一側部よりポリエステル糸、次の中央部にはビンデン(登録商標)を編成時、斜列の針間隔飛び又はそれ以上に、更に反対側部にはビンデン(登録商標)を各列に挿入し、ポリエステル糸からなる編目ステツチで一緒に編込み止める。そして3区分の巾の比率を変えることにより更に自由に収縮差を簡単に得ることが出来る。

ビンデン(登録商標)の使用が好ましい理由としては、塩化ビニール系100%のポリ塩化ビニール系繊維は収縮力が大きく、かつ熱セツト性が弱く、又、60~80℃位で収縮が始まり、理想的な繊維であるが、高温に弱く、120℃以上にては溶断が起る場合があり、温度管理が難しいからである。

前記ビンデン(登録商標)はこの点、耐熱性繊維を混紡し、耐熱性が向上されているので工程の加熱に耐え、温度管理がし易いという利点を有している。

又、縦編目ステツチ糸のポリエステルフイラメント糸は、熱セツト性があり、乾燥段階でもセツトされ、乾燥時温度が150℃以上であれば爾後の接着剤付与の加熱温度及び使用時の熱接着ならびにプレス温度が120℃~150℃であるため収縮せず、加熱装置による特別な加熱を必要とせず能率的である。

第3図は本発明の第2の発明に係る方法を例示したものであり、帯状布Aを連続長尺状態でガイドロール3、糊付槽2、第2のガイドロール4、加熱ロール5、6、7、8よりなる乾燥ロールを経て、供給ロール9から加熱装置に送り込み、引出しロール11を通つて接着剤粉末容器12から接着剤粉末が散布され、更に第2の加熱装置において該接着剤粉末が溶融される迄は前記第1の方法と同様であるが、第2の加熱装置10’と水冷ロール13との間において別途、外側面に接着剤17が付着された、例えば不織布よりなる支持布16が供給され、帯状布Aと重合されて共に水冷ロール13による加圧作用を受け、帯状布Aの溶融した接着剤により両布Aと16の接合が行われると共に、外側接着剤面が圧着され、その状態で爾後の冷却巻取りを行うことが示されている。この場合に供給される不織布よりなる支持布と帯状布との重合位置においては夫々ラツパ管(図示せず)により位置セツトを行うことが特別な技術を要することなく正確に連続して重合接着することが出来好適である。

第4図、第5図は上記の如き方法により得られた前記潜在歪曲性を有するベルト芯布Aの縫製の態様を示すものであり、前記ベルト芯布Aが所要長さに切断されズボン又はスカートの本体27の腰部に当接され、プレス熱処理によつて扇形反曲状に変形された状態が図示されている。

ベルト芯布Aの取り付けは第5図に見られる如く接着剤の面において表布25内面に接着し、裏当布26を介して共に本体27に縫着して行い、プレス熱処理により接着剤の溶融による接着と共に帯状ベルト芯布の残留収縮が発現し、扇形反曲状を呈する。

かくしてズボン、スカート等の腰部に内蔵して取着されたベルト芯布は、一度のプレス熱処理において容易にズボン、スカート等の腰部形状を使用者の腰部形状に適合せしめることが出来る。

なお、上記説明においては縫着完成後、接着収縮ベルトの扇形化を仕上プレスの加熱処理と同時に行う場合を述べたが、予め帯状布Aとベルト表布25とを加熱接着させて加熱収縮を起させ、彎曲したベルト部を作り、然る後、本体27の上縁に裏当布26と共に取り付けるようにすることも可能である。

以上のように本発明製造法は、ベルト芯布として好適な扇形反曲形状をズボン、スカート等のベルト部に容易に付与せしめることが出来るものであり、しかも巾方向において熱収縮性を異にするに拘らず、最小の熱収縮率部分の収縮率に合致して収縮せしめるものであるから、熱収縮率の大なる部分において残留せる収縮能が保有されているにしても、全体として帯状布の形状は特に変形されることなく真直な状態で処理加工が行われ、潜在歪曲性を備えたベルト芯布の加工時における取扱いならびに処理の円滑さは勿論、連続長尺のベルト芯布を縫製業者に運搬する上において頗る有用であり、縫製時におけるプレス加熱処理による接着剤の溶融作用と同時に、一挙に変形作用が可能であることと相俟つてズボン、スカート等のベルト部構成の合理的方法として極めて効果的な方法である。

又、本発明は上記の如き方法により連続的なベルト芯布の処理が可能であり、生産性の向上はもとより、その品質の面においても均一なベルト芯布を得ることが出来、頗る実際的方法である。

図面の簡単な説明

第1図は本発明製造法の工程を略図的に示した概要図、第2図は本発明方法に使用される帯状布の一部図示平面図、第3図は本発明製造法の第2の工程を略図的に示した概要図、第4図は本発明により製造されたベルト芯布の使用態様図、第5図は第4図におけるX-X線矢視方向断面図である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

目録(一)

イ号方法説明書

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理されている。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを具えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、右帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で予め熱収縮処理されて熱収縮残留率の小さい糸の熱収縮残留率以上に熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度と、同図記載の出口部よりの引出速度とが調節されつつ搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させた上、加圧冷却を行ない、その後、自然冷却しつつ巻き取ってベルト芯巻取製品を得る方法。

目録(二)

ロ号方法説明書

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理されている。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを備えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、右帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で予め熱収縮処理されて熱収縮残留率の小さい糸の熱収縮残留率以上に熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度と、同図記載の出口部よりの引出速度とが調節されつつ搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメルト接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させる。その後、不織布ボビンから導出された一方の面に接着剤が塗布されている不織布を、該不織布の接着剤が塗布されていない面と、前記帯状布のホットメルト接着剤の塗布されていない面とを重ね合わせて不織布側の接着剤を溶融しないように配慮しつつ両者を加圧貼着し、不織布を貼り合わせた帯状布を自然冷却しながら巻き取って、片面に不織布の張り合わせたベルト芯巻取製品を得る方法。

〔仕上装置の全体図〕

:表013

:表014

被告ら主張目録(一)

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理済である。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを具えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、右帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度より速い引出速度で同図記載の出口部より搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメトル接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させ、その後、自然冷却しつつ巻き取ってベルト芯巻取製品を得る方法。

被告ら主張目録(二)

四種又は五種の異なる熱収縮率を有する糸(但し、そのうち三種又は四種の糸については、予め熱収縮処理済である。)を用い、加熱されたとき、弯曲を生じる如く編成した連続細巾帯状布を別紙図面1記載の供給工程を経て糊付工程に導き糊付浸漬槽において糊付の後絞りロールを経て乾燥ロールに複数回巻き回しつつ乾燥した後、乾燥ロールのモーターによって回転する送り込みロールを経て別紙図面1記載の回転制御ロール、モーター及び搬送ロールを備えた加熱炉に導き、ロールの移送下で加熱処理を施し最終の回転制御ロールと可変抵抗器で結ばれたモーターで回転する巻取側ロールを経てフリーなテンション状態で巻取り、巻取ベルト芯中間製品を得る方法であって、石帯状布は未だ熱収縮処理されていない糸が加熱炉内で熱収縮しないように別紙図面1記載の入口部の供給速度より速い引出速度で同図記載の出口部より搬出される。

右の工程によって得られた巻取ベルト芯中間製品を右工程処理をした工場と異なる工場において、常温下で前記引出速度とは異なる遅い速度で別紙図面2記載のロールコーターに導き、ロールコーターのエンボスローラーとシリコンロールとの間に通し、エンボス内にある溶融状態のホットメトル接着剤を帯状布の片面に転写することにより、右接着剤を圧着塗布し、その後、右接着剤を自然冷却しながらガスバーナーに導き、ガスバーナーの加熱により右帯状布に右接着剤を万遍なく浸透させる。その後、不織布ボビンから導出された一方の面に接着剤が塗布されている不織布を、該不織布の接着剤が塗布されていない面と、前記帯状布のホットメトル接着剤の塗布されていない面とを重ね合わせて不織布側の接着剤を溶融しないように配慮しつつ両者を加圧貼着し、不織布を貼り合わせた帯状布を自然冷却しながら巻き取って、片面に不織布の張り合わせたベルト芯巻取製品を得る方法。

特許公報

:表015

:表016

:表017

特許公報

:表018

:表019

:表020

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